第一病院。
馬場絵里菜が到着した時、細田登美子は既に正面玄関で待っていた。
「お母さん!」馬場絵里菜は声を掛け、足早に近づいた。
近くまで来ると、馬場絵里菜は母親に直接尋ねた。「診断書は持ってきた?」
細田登美子は頷き、諦めたように言った。「私一人で来れば良かったのに。あなた、午後は授業があるでしょう。無理することないのよ。」
「そんなわけにはいかないわ。」馬場絵里菜は細田登美子の手を引いて病院の中へ向かいながら言った。「これは風邪や熱みたいに、点滴一本で治るような病気じゃないでしょう。」
娘が頑なについてくるのを見て、細田登美子は仕方なく従うしかなかった。実は娘を一緒に来させたくなかったのは、医師の言葉が娘に影響を与えることを恐れていたからだ。
馬場絵里菜の言う通り、これは単なる風邪や熱ではない。がんなのだ。しかも癌細胞は既に転移し始めている。たとえ以前の第四病院の医師が第一病院の医療技術が市内で最高だと言っても、細田登美子は分かっていた。自分の病気は、たとえ京都の最高の病院に行っても、治癒の可能性はほぼゼロだということを。
しかしこれらの言葉を娘には言えない。諦めないと娘と約束したのだから。
二人は受付で直接腫瘍外科の専門医の予約を取った。実は馬場絵里菜は来る前に既に白川昼と連絡を取っており、予約は母親を疑わせないためだけのものだった。
白川昼の指示に従い、馬場絵里菜は母親を連れて三階の一番奥の診察室へ直行した。二人が入口で立ち止まると、馬場絵里菜は母親を見上げてから、そっとドアをノックした。
「どうぞ!」中から低い声が響いた。
ドアを開けると、馬場絵里菜はすぐに診察室に座っている白衣姿の宮原重樹の姿を見つけた。
自分の目つきが冷たいことを知っているのか、宮原重樹は親切にも眼鏡をかけており、その視線はレンズの向こうに隠れ、全体的にずっと穏やかな印象になっていた。
「先生、こんにちは。」初対面を装って、馬場絵里菜は礼儀正しく挨拶した。
「先生、こんにちは。」細田登美子も挨拶した。
宮原重樹は無愛想な様子で、二人を軽く見やり、静かに頷いた。「どうぞお座りください。」