第170章:セイルズホテルの建築設計士

白川昼は山本陽介の視線を無視し、馬場絵里菜の椅子を引いてあげた。「さあ、陽介の腕前を味わってみて」

絵里菜は既に香りに誘われ、遠慮なく箸を取り、牛肉を一切れ口に運んだ。

「うーん...」牛肉は口の中でとろけるように柔らかく、肉の旨味が際立ち、陽介の丁寧な味付けにより、異なる層の味わいが口の中に広がった。まさに至高の美味しさだった。

絵里菜は陶酔した表情で声を漏らし、すっかり陽介の料理の虜になり、思わず何度も頷きながら、惜しみなく陽介に親指を立てた。「すごく美味しいよ、陽介!」

前世でさえ、絵里菜はミシュラン三つ星レストランで食事をしたことがなかった。軽井沢温泉のレストランで食べた洋食が美味しいと思っていたが、今の陽介の料理と比べると、その差は歴然としていた。

まさに、世間知らずだったからこそ、あの時は感動したのだと。

絵里菜の称賛を受け、陽介の表情がようやく和らぎ、自ら椀にスープを注いで絵里菜に差し出した。「門主、スープをどうぞ」

白川昼と陽介も席に着き、三人はしばらく無言で食事を続け、空腹感が収まってから、やっと会話を始めた。

「グループの六つ星ホテルの開発計画が日程に上がりました。国際的に有名な建築デザイナーのトム・ライトにホテル全体のデザインを依頼しました」白川昼はゆっくりと口を開き、絵里菜にプロジェクトの進捗を報告した。

絵里菜はデザイナーの名前を聞いて驚き、食事の動作を止め、白川昼を見上げて確認した。「トム・ライト?セイルズホテルをデザインしたトム・ライト?」

白川昼は軽く頷いた。「そうです」

絵里菜は心の中で非常に驚いていた。建築デザイナーを探す件を白川昼に任せたのは、彼がこの分野の人脈を持っているだろうと予想したからだ。しかし、白川昼がいきなりトム・ライトを起用するとは思ってもみなかった。

ドバイのセイルズホテル、世界で唯一の七つ星ホテルは、トム・ライトの手によるものだった。

「トムの仕事の効率は高いので、平面図面はすぐに完成するでしょう。今は施工チームと建材サプライヤーを重点的に検討する必要があります」と白川昼は言った。