白川昼は山本陽介の視線を無視し、馬場絵里菜の椅子を引いてあげた。「さあ、陽介の腕前を味わってみて」
絵里菜は既に香りに誘われ、遠慮なく箸を取り、牛肉を一切れ口に運んだ。
「うーん...」牛肉は口の中でとろけるように柔らかく、肉の旨味が際立ち、陽介の丁寧な味付けにより、異なる層の味わいが口の中に広がった。まさに至高の美味しさだった。
絵里菜は陶酔した表情で声を漏らし、すっかり陽介の料理の虜になり、思わず何度も頷きながら、惜しみなく陽介に親指を立てた。「すごく美味しいよ、陽介!」
前世でさえ、絵里菜はミシュラン三つ星レストランで食事をしたことがなかった。軽井沢温泉のレストランで食べた洋食が美味しいと思っていたが、今の陽介の料理と比べると、その差は歴然としていた。
まさに、世間知らずだったからこそ、あの時は感動したのだと。