細田登美子は言葉を聞いて申し訳なさそうな表情を浮かべた。「辞職は本意ではありません。体調を崩してしまい、大きなパラダイスを誰も管理できない状態にはできません。しかし、手続き上、私が直接辞表を提出して承認を得なければならず、井上さんにまで心配をかけて、病院まで来ていただくことになってしまい…」
「当然のことだ!」井上は軽く手を振り、細田登美子に優しい表情を向けた。「あの日、お嬢さんが私の命を救ってくれたのに、私のお礼を受け取ってくれなかった。ずっとあなたの家族にお礼を言う機会を探していたんだよ」
「井上さん、そんなにお気遣いいただかなくても。あの時は突然のことで、絵里菜は誰が相手でも助けていたと思います」細田登美子は急いで言った。
「そうかもしれないが、たまたまその人が私だったんだからね」井上は冗談めかして笑い、続けて言った。「医者があなたは回復できると言っているので、この辞表は受理しない。パラダイスのトップの座はあなたのために取っておくよ!」
細田登美子は驚いて焦った様子を見せた。「そんな…」
言葉を最後まで言う前に井上に遮られた。「心配いらない。あなたは手術と療養に専念しなさい。パラダイスの方は私が一時的に人を派遣して管理させる。あなたが回復して退院したら、また戻ってきて働けばいい」
井上の口調は穏やかだったが、その言葉は簡単には反論できないものだった。細田登美子は不適切だと感じたが、すぐには断る勇気が出なかった。
随行の助手がこの時、耳元で何か囁くと、井上は頷いて立ち上がった。「他に用事があるので、これで失礼する。あなたは安心して入院生活を送りなさい。他のことは考えなくていい。また時間があれば見舞いに来るよ」
その親しみやすい口調は、まるで細田登美子が親戚か親友であるかのようだった。
井上は井上財閥の社長として、毎日多忙を極めているにもかかわらず、わざわざ時間を作って病院に見舞いに来てくれたことに、細田登美子は既に深く感動していた。さらに年収三百万円の仕事まで守ってくれて、細田登美子はベッドに座ったまま長い間落ち着かない様子で、心の中は感動なのか感謝なのか、とにかく複雑な思いでいっぱいだった。
馬場絵里菜が病院に着いた時、テーブルの上に積まれた贈り物を見た。
人参や冬虫夏草など、いずれも高価な品々で、思わず困惑の表情を浮かべた。