第185章:1銭の価値もない関係

「退職したって?」

馬場長生は眉をひそめ、驚いた様子でそのウェイターを見つめた。

ウェイターは弱々しく頷いた。「はい...一週間ほど前のことです。」

ただ、彼は一介のウェイターに過ぎず、細田社長が退職したことは知っていても、その理由までは分からなかった。

馬場長生はそれを聞いて、心が乱れた。彼は登美子が今パラダイスのマネージャーをしているので、彼女と子供の生活はそれほど苦しくないはずだと思っていた。

しかし、細田登美子が退職したとは思いもよらなかった。自分が突然現れたせいだろうか?彼女は自分を避けるために、このような高給の仕事を諦めたのだろうか?

馬場長生が余計な想像をしてしまうのも無理はない。細田登美子は学歴は高くないが、性格は強く働き者だが、とても頑固だった。パラダイスの総支配人は年収数百万円で、彼女の条件と能力でこの地位まで上り詰めるのは容易ではなく、簡単に辞めるべきではなかった。

そして、この出来事が自分との再会の後に起こったことで、馬場長生は登美子の退職が自分のせいだと確信してしまった。

心の中で後悔と自責の念に駆られた。登美子との再会は偶然だったが、あの日、しつこく追及すべきではなかった。そうすれば、登美子に余計な心配をかけずに済んだかもしれない。

二人は十数年離れ離れで、お互いに干渉しない気持ちを持ち続け、それぞれ新しい生活を送っていた。

今、登美子は自分が彼女と子供の生活を邪魔することを恐れて、意図的に自分を避けているのだろう。

馬場長生は頭の中で色々と想像を巡らせていたが、細田登美子にとっては、年収三百万円の方が彼よりもずっと重要で、この一件は彼とは全く関係がなかったのだ。

……

夜、家に帰ると、庭の外から家の中の明かりが見え、馬場絵里菜は豊田拓海が既に帰っていることを知った。

中庭に入ると、家からかすかに料理の香りが漂ってきて、馬場絵里菜は心の中で微笑み、ドアを開けた。

食卓には既に四品の料理が並んでいた。トマトと卵の炒め物、酸っぱ辛い千切りジャガイモ、豚の角煮、ピーマンと肉の炒め物。豊田拓海が言った通り、どれも家庭的な料理だったが、香ばしい匂いが漂い、その見た目だけでも食欲をそそられた。