まさに一寸の虫にも五分の魂とはこのことだ。
馬場依子は本当に自分の言葉通りになり、譲歩するどころか、被害者のような態度で慌てて逃げ出した。
こうして、林駆は弁解のしようがない状況に追い込まれた。もし二人に何の関係もないのなら、なぜ馬場依子がこれほど心を痛めているのだろうか?
これこそが馬場依子の巧妙なところだった。
事態が曖昧であればあるほど、林駆は説明できなくなる。彼女が傷つき悲しむ様子を見せれば見せるほど、周りの人々は彼女に同情するようになる。
吉田清水と鈴木玲美もその場で失望したような目で林駆を見つめ、すぐに馬場依子を追いかけて行った。
残りの人々も大半が非難の目を向け、一部の人々だけが他人事のように、ただの見物人として立ち尽くしていた。
この時の林駆の心は、行き止まりの十字路のように、胸に詰まった思いが上にも下にも行き場を失っていた。