放課後、夏目沙耶香と馬場絵里菜は一緒に足立区行きのバスに乗った。
バスに乗るなり、夏目沙耶香は大きな目を見開いて、あちこち見回し、珍しそうな表情を浮かべた。
馬場絵里菜はその様子を見て、苦笑いしながら小声で尋ねた。「乗ったことないの?」
夏目沙耶香は興奮した様子で頷いた。
夏目グループのお嬢様は、外出時はいつも専用車で、家のガレージには高級車が並び、バスなど乗るはずもなかった。
バスどころか、タクシーにさえ夏目沙耶香が乗った回数は片手で数えられるほどだった。
バスは停留所で止まっては進み、夏目沙耶香は面白く感じていた。この方向は自宅とは正反対で、乗車時間が半分を過ぎると、建物は徐々に古くなり、通りは狭くなっていった。
世田谷区に入るとすぐ、夏目沙耶香は我慢できずに言った。「世田谷区ってこんなに荒れているのね。」
「世田谷区に来るの初めて?」高橋桃は少し驚いて、目を丸くして尋ねた。
夏目沙耶香は迷うことなく再び頷いた。
高橋桃:「……」
馬場絵里菜:「……」
高橋桃と馬場絵里菜は思わず目を合わせ、これは大げさすぎると心道った。
東京の地元民なのに、世田谷区は経済的に少し遅れているとはいえ、港区に隣接しており、高層ビルも少なくなく、荒廃しているとは言えないはずだった。
夏目沙耶香が十四年間で初めて世田谷区に来たなんて……
馬場絵里菜は思わず夏目沙耶香を見て、予防線を張った。「これはまだまだよ。足立区に着いたら、本当の荒廃を見ることになるわ。」
夏目沙耶香は気にせず微笑んで、足立区が貧民街だということは誰もが知っているし、来たことがなくても心の準備はできていると心道った。
……
二十分後、夏目沙耶香は路地に立ち、目の前に広がる低い平屋の家々、至る所に見える竹垣の庭、でこぼこの土道を見て、まるで体が固まったかのように立ち尽くした。
これは……
田舎に来たの?
馬場絵里菜と高橋桃は目を見開いて呆然とする夏目沙耶香を見て、思わず顔を見合わせて笑い、高橋桃が先に口を開いた。「夏目お嬢様、足立区へようこそ。」
「コッコッコー……」
一匹の雌鶏が彼女たちの前をのんびりと横切り、夏目沙耶香の口角がかすかに引きつった。