第210章:掌握

「お前……」

馬場依子は驚きと怒りで、馬場絵里菜の手にある白いボイスレコーダーを見つめ、一瞬言葉を失った。

普段は寡黙な馬場絵里菜は、夏目沙耶香と友達になっても目立つことはなかった。馬場依子は、まさか馬場絵里菜の罠にはまるとは思いもしなかった。

胸が詰まるような怒りを感じながら、大きな目で馬場絵里菜を睨みつけた。「さっきのは全部演技だったのね!」

驚きや意外さ、そして柔らかな態度で自分の感情に寄り添うような振る舞い。

全てが嘘だった。彼女はこんなにも巧みに演技をし、自分は馬場絵里菜に騙されていたのだ!

しかし馬場絵里菜は軽く唇を歪め、意味深な笑みを浮かべた。「お互い様でしょう?あなたがそんなに演技好きなら、相手役も必要でしょう?」

そう言いながら、尋ねるような目つきで「私の演技、まあまあだったでしょう?」

今の馬場絵里菜は、まるで別人のようで、馬場依子の印象とは全く異なっていた。

むしろ彼女よりも深く隠していた。普段は影の薄い存在を装っていたのに、こんなにも計算高い人間だったとは。

馬場依子が言葉を発する前に、馬場絵里菜は続けた。「あなたのその未熟な策略なんて、目も心も見えない馬鹿を騙すくらいはできるでしょうけど、林駆のことを知っている私たちには、あなたの魂胆は見え透いています。

林駆に告白を強要して失敗したから、今度は林駆を皆の前で非難の的にして、自分だけ綺麗な身でいようとしているの?」

馬場絵里菜は残念そうに首を振った。「甘い考えね!」

「一体何がしたいの!」馬場依子は歯を食いしばり、もはや普段の可愛らしい様子は微塵もなかった。

馬場絵里菜は鼻で笑い、嘲笑うような表情を浮かべた。「何もしたくないわ。ただ林駆の潔白を証明したいだけ。あなたが起こした問題の尻拭いを、誰かがする義務なんてないわ!」