第221章:撮影現場入り(1)

細田登美子は言葉を聞いて思わず微笑み、細田芝子を見ながら言った。「私たちがお兄さんと比べられるわけないでしょう?」

細田仲男は大学卒業後2年間働いてから、ビジネスを始めて起業した。今では資産は数百万円あり、世田谷区の一番いい住宅地に住み、アウディに乗り、西洋料理を食べ、ワインを飲んでいる。今回、弟の結婚式で1万円包んだ。二人の妹より多かったものの、彼の経済状況から見れば、1万円は少なくはないが、多くもない金額だった。

しかし細田登美子と細田芝子の二家族の状況は、細田仲男と比べると雲泥の差があった。細田登美子は年収300万円の仕事を得たばかりだが、1ヶ月も経たないうちに入院することになってしまった。彼女は5千円包みたかったが、細田芝子の状況を考慮して、3千円にした。

細田芝子はそれを聞いて、そうだなと思い、もう気にしないことにした。

午前11時30分きっかりに宴会が始まった。馬場絵里菜はすでにお腹がペコペコだった。幸い、彼女たちのテーブルは全員子供だったので、あまり気を使う必要もなく、料理が運ばれてくるとすぐに、馬場絵里菜は一番に箸を付けた。

……

その時、豊田拓海は足立区の交差点で躊躇いながら行ったり来たりしていた。

撮影現場に入って、マネージャーのふりをしなければならないと考えると、胸がドキドキした。怖いというわけではないが、どうしても緊張してしまう。

しばらくすると、遠くから黒いメルセデスベンツのワゴン車が速やかに近づいてきた。豊田拓海が気付く前に、その車は彼の目の前にスムーズに停車した。

車のドアが開き、夏目沙耶香は笑顔で豊田拓海に手を振った。「拓海さん、乗って」

豊田拓海は一瞬固まり、目の前の高級車を思わず何度も見回してから、しばらくして呆然とした表情で車に乗り込んだ。

「これはあなたの車?」豊田拓海はメルセデスベンツに乗るのは初めてで、表情には隠しきれない興奮が見えた。

夏目沙耶香は笑いながら頷き、そして横から買い物袋を取り出して豊田拓海に渡した。「拓海さん、服を買ってきたわ。現場に着いたら車の中で着替えて」

豊田拓海が反応する前に、夏目沙耶香はさらにもう一つの買い物袋を渡した。「靴も」

豊田拓海は二つの買い物袋を抱えて戸惑いながら瞬きをし、最後に少し恥ずかしそうに口を開いた。「要りません。新しい服を着てきましたから」