周りの人々から称賛を受け、夏目沙耶香は涙を笑顔に変えた。
豊田拓海は彼女を支えて端の椅子まで連れて行き、水を渡した。「喉がかれているから、少し飲んだら?」
その時、細田鳴一監督は撮影を一時中断し、わざわざ夏目沙耶香のところまで来て、「沙耶香、素晴らしい演技だったよ。最初のシーンは感情表現が一番豊かなシーンだったけど、君はそれを完璧にこなした。これからはもっと楽になるはずだよ。頑張って!」と言った。
そう言うと、夏目沙耶香に励ましの笑顔を向け、彼女の返事を待たずにカメラの方へ向かい、手を叩きながら「はい、次のシーンの準備!」と声を掛けた。
細田鳴一監督と先輩たちの認めを得て、夏目沙耶香の心は落ち着いた。
実は、さっきの演技の時、自分がどれほど上手く演じているかは分からなかった。ただ本能的に演じ、失敗して恥をかかないようにと願っていただけだった。