夏目沙耶香と豊田拓海は現場に残り、隅に立って他の人々の演技を観察していた。
実は、この期間中、夏目沙耶香も何度か演技のレッスンを受けており、演技について基本的な理解を得ていた。演技の先生からも才能があると褒められていた。
しかし、まもなくカメラの前で本物の俳優と共演することを考えると、夏目沙耶香は緊張せずにはいられなかった。
彼女だけでなく、もっと緊張している人もいた。
撮影が始まるとすぐに、新田愛美との最初のシーンで、主演男優は何度もミスを重ねた。台詞を間違えたり、台詞を忘れたりしていた。
「カット!」
「カット!」
「カット!」
「カット!カット!カット!カット!カット!カット!」
カメラの後ろにいる細田鳴一監督は、顔を真っ赤にしながらカットを連呼し、ついに主演男優に向かって怒鳴った。「陸田君、どうしたんだ?売れっ子になったら演技できなくなったのか?」
陸田隆は恥ずかしそうな表情で、すぐに謝罪した。「申し訳ありません、細田監督。もう一度やらせてください!」
そう言いながら、深いため息をつき、自分の情けなさを呪った。新田愛美の顔を見ただけで頭が真っ白になるなんて。
「陸田先輩、リラックスしてください」新田愛美は陸田隆の調子の悪さを察したのか、優しく声をかけた。
新田愛美の顔と、その柔らかな微笑みを見て、陸田隆は世界中が花開いているような感覚に襲われ、心臓が喉から飛び出しそうになった。
「へへ」と馬鹿笑いをしながら、頷いた。「はい」
陸田隆はデビューして何年も経つベテラン俳優で、初主演作品で細田鳴一に抜擢され、一躍スターとなった。国内の一流男優として、人気と実力を兼ね備えた大スターだ。
陸田隆は長身で、憂いを帯びた切れ長の目が監督たちに重宝がられ、憂鬱な貴族的キャラクターの役には必ず最初に声がかかり、そのため「憂鬱な王子様」という異名も持っていた。
しかし、王子様も心を奪われることがある。新田愛美の先輩として、陸田隆も彼女の魅力に抗えず、最初のシーンだけで既に対応に苦慮していた。新田愛美の顔を見ると、他のことを考えられなくなり、台詞を覚えることすらままならない。
「陸田隆のような大物スターでも緊張して間違えることがあるんだから、気楽に構えていいよ」豊田拓海は夏目沙耶香の耳元で囁いた。