第314章:時間を約束しましょう

馬場絵里菜は慌てて説明した。「申し訳ありません、豊田おじさん。最近は色々と忙しくて、白川昼が思い出させてくれなかったら、すっかり忘れていたところでした。電話番号については、前回交換した時の携帯が水没して使えなくなってしまい、これは新しく買い換えたものなんです。」

2002年、携帯電話はまだ一台一番号で、SIMカードのような先進的なものはなかった。

豊田剛は理解を示したが、もう夜の9時近くだったため、馬場絵里菜に言った。「どんなに急いでいても、夜遅くに仕事の話をする必要はないでしょう。絵里菜ちゃん、私の会社に来る日時を決めて、そこで詳しく話し合いましょう。どうですか?」

「明日の午後6時はいかがでしょうか?」馬場絵里菜は放課後の時間を直接指定した。

豊田剛は馬場絵里菜が週末を選ばなかったことから、本当に急いでいるのだと察し、笑顔で承諾した。「いいですよ。秘書に明日の夜6時以降の時間を空けておくように伝えておきます。」

「ありがとうございます、豊田おじさん!」

電話を切った豊田剛の顔には、まだ笑みが残っていた。

「誰からの電話?そんなに嬉しそうね。」

その時、部屋の浴室からシルクのバスローブを着た女性が出てきた。女性は40歳を過ぎていたが、手入れが行き届いていたため30代に見え、豊田剛を見ながら腕にスキンケア製品を塗っていた。

女性の名は田中鈴、豊田剛の妻であり、センチュリーグループの総務部長だった。

豊田剛は首を振って笑い、田中鈴に向かって言った。「前に話した14歳の女の子を覚えているかい?」

田中鈴は以前豊田剛の秘書を務めていた関係で記憶力が抜群だった。すぐに頷いて「覚えてます。絵里菜ちゃんですよね。」

「そうだ!」豊田剛は深く息を吸い、ゆっくりと話し始めた。「この前の市の土地競売で、突然東海不動産が現れて、馬場家は大きな痛手を負った。この件は話題になって、東京不動産業界で笑い種になってしまったんだ。」

田中鈴も口元を緩めた。「馬場家が何年ぶりかで、人に突っ込まれる話柄を作ってしまったということですね。」

豊田剛は軽く頷いた。「絵里菜ちゃんが、東海不動産の裏のオーナーなんだ!」

田中鈴は驚いて手を止め、鏡越しに後ろの豊田剛を見た。「えっ?絵里菜ちゃんが東海不動産の...」