二人は通りの角にある質素な小さな食堂にやってきた。以前の細田登美子の朝食店の向かい側だった。
ちょうど食事時で、食堂は小さいながらも客が多かった。
馬場絵里菜と隼人は空いている席を見つけて座った。隣の壁には赤い壁紙が貼られ、メニューと価格が表示されていた。
女将は絵里菜を知っていて、手が空くと自ら二人のテーブルに近づいてきた。「絵里菜ちゃん!」
「田中おばさん!」絵里菜は女将を見て、すぐに笑顔で挨拶した。
「何を食べる?」
絵里菜は魚香肉絲と卵とトマトの炒め物、ご飯二杯を注文し、隼人にはソーダも頼んだ。
女将は余計なことは聞かず、他のお客の対応もあったので、絵里菜の注文を取ると立ち去った。
絵里菜はようやく隼人に向かって尋ねた。「どうしたの?何か悩み事があるみたいだけど。」
隼人は絵里菜を見て唇を噛み、無邪気な表情を浮かべた。
しばらくして、彼がカバンを取り出し、中からピンク色の封筒を取り出してテーブルの上に置くのが見えた。
絵里菜はそれを手に取って見て、一瞬驚いた表情を見せた後、理解して思わず笑みを漏らした。
封筒はピンク色で、何も書かれていなかったが、中身は想像に難くなかった。
「ラブレターをもらったの?」絵里菜は笑いながら聞いた。
進藤隼人は口を尖らせてぶつぶつと言った。「姉さん、笑わないで。」
絵里菜は笑いを抑えて頷いた。「これって普通のことじゃない?どうして嬉しくないの?」
今の高校では、男女学生が内緒でラブレターを交換するのはよくあることで、第二中学校のミスターやミスといった美男美女たちは、ほぼ毎日のように受け取っていた。林駆も最近何通か受け取ったばかりだった。
隼人は色白で、背が高くてイケメンで、少し可愛らしいところもある。姉の自分でさえ頬を摘みたくなるのだから、他の女子生徒たちはなおさらだろう。
絵里菜の考えでは、隼人はこんなに優秀なのだから、とっくにラブレターをもらっていてもおかしくなかった。
進藤隼人は俯いたまま、恥ずかしいのか何なのか、黙っていた。
正確に言えば、彼はこういう状況をどう処理すればいいのか分からなかったのだ。
絵里菜は弟のことをよく理解していた。彼は人を断るのが苦手な人間で、いつも相手の立場に立って物事を考えていた。