馬場絵里菜がセンチュリーグループとの提携を選んだ最も重要な理由は、実は豊田剛の人柄を見込んでいたからだった。
絵里菜が言うように、豊田剛とは二度しか会っていないが、実際、初めて会った時の彼の行動が彼女に良い印象を残した。ビジネスマンは利益を第一に考えるものだが、豊田剛は彼女が井上を救ったことがきっかけで、約1000万円のマンションを半額で彼女に売った。数百万円は数百億円の資産を持つ豊田剛にとっては微々たるものかもしれないが、彼の数百億円の資産も一つ一つの数百万円から積み重ねられたものだ。
ビジネスマンの目には、金額の大小に関係なく、お金はすべて自分のポケットに入れたいものなのだ。
豊田剛の言葉を聞いて、絵里菜は穏やかな笑みを浮かべ、そしてプロジェクト責任者の佐藤裕に目配せをした。佐藤裕はすぐさま手元のプロジェクト図面を前に差し出した。
絵里菜はタイミングよく口を開いた。「豊田おじさん、提携できるかどうかは、御社の施工チームの技術力次第ですね。今回私が提携したいプロジェクトは、ただの普通のビルではありません。その建設の難しさは、日本国内でも前例のないものなんです!」
豊田剛はその言葉を聞いても表情を変えなかったが、絵里菜の自信に満ちた様子から、彼女が決して誇張していないことを理解した。
絵里菜の言葉は、さらに豊田剛の興味を引き立てた。すぐに笑顔で頷きながら言った。「よし、それなら豊田おじさんはもっと気になってきたよ。東海不動産の第一号プロジェクトは、一体どんなものなのかな。」
そう言いながら、豊田剛は大きなプロジェクト図面をオフィスのテーブルに広げた。複雑な構造と奇抜な形状のホテルの設計図が、豊田剛の目の前に現れた。
一目見ただけで、豊田剛は目を見開いた。
「これは……」豊田剛は信じられない様子で何度も見直し、驚きのあまりしばらく言葉が出なかった。
不動産業界で長年活躍してきた豊田剛の会社は、主にマンションや高級住宅地を手がけており、そのデザインはほとんど似通っていた。
東京も同様で、経済は発展しているものの、デザイン性の高いビルは現在それほど多くない。Mホテルのような前衛的で大胆な外観を持つものは皆無で、日本でもこれほど複雑で手の込んだ構造のビルは今まで存在しなかった。