第330章:離婚しよう

そのとき、世田谷区の細田仲男の家では。

豪華な邸宅の中は明かりが灯っていたが、室内の雰囲気は凍りついていた。

広々としたリビングは静まり返り、物音一つしない。ソファーには伊藤春が黒い服装で身を包み、髪をきつく後ろで束ねていた。

外見は爽やかな印象を与えるものの、伊藤春の目に宿る疲れと寂しさは隠しようがなかった。

細田仲男の不倫を見つけた日から、彼女は実家に戻っていた。この数日間、彼女はこの問題をどう処理すべきか、自分はどう向き合うべきかを考え続けていた。今この家に戻ってきた伊藤春は、明らかに心の中で答えを出していた。

一方、細田仲男は部屋着姿で、腕を組んで高慢な態度で椅子の背もたれに寄りかかり、伊藤春を見ることも、話しかけることもなかった。

彼の表情からは、わずかな後悔や罪悪感も見られなかった。この数日間、彼は伊藤春の許しを求めようともせず、まるで間違いを犯した人間が自分ではないかのようだった。

このような態度は、すでに苦しんでいた伊藤春の心をさらに死に至らしめた。

二人の他に、細田お婆さんと伊藤春の母親である田中蘭子もいた。

田中蘭子は娘に付き添って問題解決のために来ており、細田お婆さんは伊藤春からの電話を受けて急いでやってきたのだった。

長男は両親に甘やかされて育ったため、今回不倫が嫁に見つかってしまったことで、お婆さんは怒りたい気持ちはあるものの、息子を叱ることができなかった。

細田お婆さんの目には、息子の唯一の過ちは不倫をしたことではなく、不倫が見つかってしまったことだった。

あまりにも不注意すぎる!

二人ともまもなく四十歳で、十代の子供も二人いるのに、これで離婚することになったらどうしよう!

「ああ、これはいったいどういうことなの...」

細田お婆さんは思わずため息をついた。息子を庇いたい気持ちはあったが、今の最重要事項は嫁の怒りを鎮め、息子との離婚を避けることだった。

老夫婦は常に細田仲男を誇りにしていたが、もしこの年で離婚することになれば、二人の面目はどこに置けばいいのか?近所の人々に笑われてしまうではないか?最も重要なのは、離婚すれば財産分与が必要になることだった。

そう考えながら、細田お婆さんは思わず伊藤春を見上げ、何か言おうとした矢先、ずっと黙っていた伊藤春が突然口を開いた。

「離婚しましょう!」