馬場絵里菜は言葉を聞いて、思わず苦笑いを浮かべた。「おばさん、お母さんにもまだ言ってないんですよ」
細田芝子が口を開く前に、馬場絵里菜は説明を続けた。「この会社は友人の助けを借りて設立したもので、今は順調に運営されています。しばらくしてからお母さんに話そうと思っていて、その時におばさんにも一緒に話すつもりでした」
ここまで言って、馬場絵里菜は軽くため息をついた。「でも今日突然おじさんが怪我をして、おばさんも人員削減で失業したと知って、もう隠す必要はないと思いました。私の会社でおばさんとおじさんに仕事を用意しようと思います」
「これは...」細田芝子は言葉を失い、今は何を言えばいいのかわからなかった。
信じられないと言うべきか?でも事実は目の前にある。
彼女は今、驚きの他に何も感じられなかった。
そして驚きの中、馬場絵里菜の言葉を聞いて、感動を抑えることができなかった。
なんと絵里菜が自分を会社に連れてきたのは、仕事を用意するためだったのだ。
しかしこの立派な大企業を見て、細田芝子はテレビでしか見たことがなかった。文化的教養もなく、服を作ることしかできない中年女性の自分に、ここで何ができるというのだろう?
確かに今は家計を支えるための仕事が必要だが、絵里菜に迷惑をかけたくない。細田芝子には、このような大企業で自分に何ができるのか想像もつかなかった。
そう考えながら、細田芝子は口を開いた。「絵里菜、おばさんを心配してくれてありがとう。でもおばさんにはこんな会社で働けるような能力はないの。適当なレストランで給仕をしたり、掃除や皿洗いをしたりする程度でいいのよ」
「あなたがこんな大きな会社を持てて、おばさんは本当に誇りに思うわ。でもだからといって、あなたの恩恵にあずかって迷惑をかけるわけにはいかないの」
細田芝子のこの言葉は誠実で素朴で、少しも見せかけの遠慮などではなく、本心からそう思っていた。
しかし馬場絵里菜はそれを聞いて、ますます心が痛んだ。すぐに細田芝子を見つめて言った。「おばさん、私がこんなに頑張ってきたのは、自分のためだけじゃないんです。大切な人たちみんなに良い暮らしをしてもらいたいからなんです」