第338章:社長様、こんにちは

「絵里菜、どこに行くの?」

細田芝子は好奇心を抑えきれず、また尋ねた。

馬場絵里菜は芝子の手を握り、ぎゅっと力を込めた。「おばさん、着いたら分かるわ」

姪が自分に対して秘密めかしているのを見て、芝子は思わず微笑み、目尻の細かい皺が浮かんだ。「もう、おばさんに対してまで秘密にするなんて」

絵里菜は笑うだけで何も言わず、ただ芝子の肩に寄り掛かった。

芝子は絵里菜の親密な仕草を感じ、目元が柔らかくなった。少し感慨深げな声で言った。「おばあちゃんとおじいちゃんは男の子を重視したけど、おばさんは女の子が好きなの。政策が厳しくなければ、きっと女の子を産んでいたわ」

女の子はいいものだ。両親の心の支えになる。

でも幸い、隼人という息子も思いやりのある子で、芝子は子育てにそれほど苦労しなかった。

「おばさん、私があなたの娘よ」

絵里菜が突然小声で言い、芝子はハッとした。

次の瞬間、芝子は目に涙を浮かべ、慌てて顔を横に向けたが、心の中は温かい気持ちでいっぱいだった。

絵里菜はもう何も言わなかった。ある感情は、言葉で表現する必要はない。彼らの家族とおばさんの家族の絆は、お互いが実感できるもので、すでに区別のないものとなっていた。

人力車はしばらく走って桜通りに着き、最後に東海不動産のある高層ビルの前で止まった。

二人が車を降り、芝子は目の前の頂上まで見えないほど高いビルを見上げ、心臓がドキドキした。

「絵里菜、ここはどこ?」芝子はまた我慢できずに尋ねた。

東京に二十年以上住んでいるとはいえ、芝子が港区に来ることは少なかった。生活の中心は足立区と世田谷区にあり、買い物をする時でも、港区の店は彼女には手が出ない価格だった。

絵里菜は答えず、直接芝子の手を引いてビルの中に入った。

エレベーターに乗り、絵里菜は17階のボタンを押した。

絵里菜が道案内に慣れている様子を見て、芝子は緊張で心臓が早くなった。絵里菜が自分をどこに連れて行くのか分からないからだ。人は未知のことに対して不安を感じるものだ。

17階で、'ピン'という音とともにエレベーターのドアが開いた。

まず目に入ったのは、東海不動産の清潔で整然とした受付だった。受付嬢は職業的な服装で、エレベーターの開く音を聞いて顔を上げた。