第342話:部屋選び

馬場絵里菜はグループの社長として、細田芝子をマネージャーの職位に一気に昇進させることができたが、彼女はそうしなかったし、そうしようとも思わなかった。

社長として、会社の全従業員に対して責任を持ち、皆の信頼を得なければならない。そのため、叔母の能力と学習範囲内の仕事を手配し、いつか叔母の能力が徐々に向上すれば、自然と昇進させるつもりだった。

しかし今は、この職位が彼女に最も適しており、細田芝子にプレッシャーや戸惑いを感じさせることもない。

仕事の件が決まり、馬場絵里菜は会社に長居せず、細田芝子を連れてエメラルドガーデンの販売センターへ向かった。

販売センターの文字を見た細田芝子は、絵里菜が何をしようとしているのかすぐに気づき、すぐに馬場絵里菜の手を引っ張り、小声で言った:「絵里菜、叔母さんはこの数日間部屋を探しているから、急がなくていいのよ。」

そう言いながら、周りのマンションを見渡した。一棟一棟がとても高く、少なくとも20階はあり、間違いなくエレベーター付きの高層マンションで、とても高価だろう。

馬場絵里菜はそれを聞いて微笑み、細田芝子の手を安心させるように握り、優しく話し始めた:「このマンションは私たちの会社のパートナーが開発したもので、先日協力関係を結んだばかりなの。会社が発注者として、彼らから特別な配慮を受けて、この部屋は私が彼らにお願いしたもので、一銭も払っていないの。」

細田芝子はそれを聞いて目を丸くした。こんな良い部屋を、ただでくれる?

どれほど大きな取引なら、数千万円もする部屋を一気に提供できるのだろう?

細田芝子が驚くのも無理はない。彼女は本当に世間知らずだった。細田仲男の数百万円の資産は、彼女の目には既にすごい富豪に見えていた。

二人が販売センターに入りながら、馬場絵里菜は説明を続けた:「このマンションは一中にとても近くて、前の交差点を渡るだけで着くの。会社にも近いから、あなたの通勤も、隼人の通学も便利よ。」

馬場絵里菜は何気なく言ったが、細田芝子はまた目に涙が浮かんでしまった。前世でどんな善行を積んだのか、こんなに素晴らしい姪を持てたのだろう。

あらゆる面で家族のことを考え、すべてを計画していたのに、これまで一言も漏らさなかった。

「こんにちは、お部屋をご覧になりますか?」