第344章：物件の引き渡し

絵里菜は慌てて説明した。「おばさん、1元というのは形だけで、金額の取引が関係する場合にのみ売買契約が有効になるの。実際には豊田おじさんが私にくれたものなの」

細田芝子は少し躊躇していた。絵里菜は家が無料だと言っているが、この家は元値が50万元近くするため、すんなりと心置きなく受け入れることができなかった。

「サインして、おばさん。この家は最初に私が豊田おじさんにお願いしたとき、おばさんたちのためにお願いしたんだから」馬場絵里菜は淡々とした口調で言った。まるで目の前のこの家が彼女の目には本当に1元の品物にしか見えないかのように。

しばらくして、細田芝子は手にしたペンをぎゅっと握り締め、大きな決心をしたかのように、素早く自分の名前にサインした。

馬場絵里菜はそれを見て、思わず安堵の笑みを浮かべた。

おばさんがどれだけ心の中で葛藤していようと、結局は受け入れてくれた。これは彼女が望んでいた結果だった。

契約書にサインを済ませると、すぐに菅野部長が権利書を細田芝子の手に渡し、熱心に「エメラルドガーデン団地へようこそ」と声をかけた。

細田芝子は権利書を手にしながら、それが千斤の重さのように感じられた。すべてが夢のようで、あまりにも恍惚として、現実感がなかった。

120平方メートルの家。彼女は夢にも思わなかった。自分がいつか港区でこんなに大きな家を持つことになるとは。

帰りの車の中で、細田芝子は絵里菜を見て言った。「絵里菜、おばさん何て言っていいか分からないわ」

細田芝子は本当にこの時、適切な言葉が見つからなかった。あるいは、どんな言葉もこの瞬間には色あせて見えた。このプレゼントはあまりにも高価で突然で、彼女には全く心の準備ができていなかった。

馬場絵里菜は細田芝子の手を取り、穏やかで淡々とした笑顔を浮かべた。「おばさん、何も言わなくていいの。あなたにいくらお金を使っても私は惜しくないわ。たかが一軒の家よ。私の会社が家を建てる会社だってことを忘れないで！」

それに、この家にはお金もかかっていない。ただ豊田剛が好意で無償で彼女にくれただけだった。

「まさか絵里菜がこっそりとこんな大きなことをしていたなんて、おばさんは想像もしなかったわ。あなたのお母さんが知ったら、きっと信じられないでしょうね！」細田芝子は感嘆した様子で言った。