馬場絵里菜の出身について話が及ぶと、皆は思わず先日学校で起きた出来事を思い出した。
吉田清水はすぐに小声で鈴木由美を見て言った。「声を小さくして。先日の噂を忘れたの?」
鈴木玲美も気づいて言った。「馬場絵里菜のお金持ちの彼氏のこと?」
この件の話題性は落ち着いてきたものの、つい最近起きたことなので、馬場絵里菜の名前が出るたびに、みんなこの件を思い出してしまう。
あの日の昼、馬場依子と鈴木由美は食堂にいなかったので、井上裕人を見かけることはなかった。ただ、学校の女子たちは食堂に現れたあの男性を極上の男性と絶賛していた。
実際に見ていないので、鈴木由美と馬場依子は気にも留めなかった。
外見なんて、どれほどイケメンだというの?
ただ、田中奈々先輩の家が破産したという話は本当らしく、あの日以来、田中奈々は第二中学校から姿を消した。転校したという話だが、詳しいことは誰も確かな情報を持っていなかった。
「もしかしたら、もう彼女を振ったかもしれないわよ。そうじゃなかったら、これだけ日が経っているのに、あの男性を見かけた人いる?」
鈴木由美は軽蔑するような口調だったが、それでも声を潜めていた。
吉田清水と鈴木玲美は目を合わせたが、これ以上噂話をする勇気はなかった。もし馬場絵里菜の耳に入ったら、大変なことになるからだ。
……
土曜日、馬場絵里菜はいつものように早起きした。
しかし部屋を出ると、母親はすでに出かけていて、兄の輝だけが家にいた。
「お母さんどこ行ったの?」馬場絵里菜は馬場輝に尋ねた。
馬場輝は台所に向かって妹の朝食を温めながら答えた。「新しい家の方に行ったよ。古谷おじさんが立ち退きの知らせがもうすぐ来るって言ってたから、新居の方はまだ何も準備できてないし、母さん焦ってるんだろうね。」
「リフォームは急いでも仕方ないでしょう。できあがってもすぐには住めないんだから!」馬場絵里菜は言った。
馬場輝はそれを聞いて微笑んだ。「母さんのことは分かってるだろう。じっとしていられない性格だし。病院で一ヶ月も寝ていたんだから、やっと退院できて、当然動き回りたくなるよ。」