第371話:入れ替わってみない?

細田梓時は長い間母親の作った料理を食べていなかったので、その言葉を聞いて思わず顔を輝かせ、急いで言った。「母さん、ニンニク風味のロブスターが食べたい。」

細田萌も口を開いた。「私はチーズ焼きロブスターが食べたい!」

子供たちが側にいて、仕事もうまくいき、伊藤春は喜びに満ちた表情で、離婚のことで少しも暗い様子はなかった。

何度もうなずきながら答えた。「いいわよ、ママが作ってあげる!」

細田萌は気の利く女の子で、母親の様子が特に良さそうなのを見て、思わず尋ねた。「ママ、新しい仕事が見つかったの?」

伊藤春も隠さず、ただ笑いながらうなずいた。「見つかったわ、とてもスムーズに!」

馬場絵里菜に会ったことについては口にしなかった。息子もいることだし、馬場絵里菜がこのことを人に知られたくないかもしれないし、子供たちが帰って細田仲男に話すのも避けたかったからだ。

細田家の人々は、みな吸血鬼で、特に長女の細田登美子の血を吸うことに専念していた。これまでの年月、彼女はそれを数多く目にしてきた。そのほとんどが、あの役立たずの細田繁のためだったが。

細田梓時は二人の会話を聞いて、表情が硬くなった。

「仕事を探す?」細田梓時は眉をひそめ、伊藤春を見つめながら言った。「ママ、離婚の時にパパからお金をもらえなかったの?どうして仕事に行かなきゃいけないの?」

息子の真剣な表情と、声に込められた心配を見て、伊藤春の心は温かくなったが、表情には苦笑いを浮かべた。「バカね、お金があっても働かなきゃいけないのよ。お金はいつか使い切っちゃうでしょう。でもあなたたちはまだ小さいし、ママはあなたたちの将来のために考えなきゃいけないの。」

細田梓時はその言葉を聞いて、一時言葉を失った。

何事においても自分のことを考えてくれる母親の伊藤春と比べると、細田仲男が長年築き上げてきた慈父のイメージは細田梓時の心の中で一瞬にして崩れ去った。もし自分が父親の目に本当に一番大切な存在なら、何日も自分を放っておくはずがない。

その時、細田梓時は以前の父親の優しさが全て演技で、本心ではなかったのではないかと疑い始めた。

伊藤春は買い物袋を持ってキッチンに入り、細田萌と細田梓時はリビングのソファに座った。