白川飛鳥の声には明らかな感嘆が込められており、馬場絵里菜はそれを聞いて思わず苦笑いを浮かべた。
白川飛鳥は水雲亭の総支配人であり、つまり井上財閥の中間管理職で、細田登美子と同じ地位にいた。
白川飛鳥以外にも、水雲亭の各部門の管理職は全て井上財閥の人間だった。
現在、水雲亭はMグループの傘下にあるものの、白川飛鳥たちは井上裕人によって留め置かれ、馬場絵里菜が適任者を見つけるまで退職できない状況だった。そのため、白川飛鳥の心中は複雑だったかもしれない。結局のところ、自分は彼女の直属の上司ではないのだから。
多くを語らず、馬場絵里菜は他の場所も見学し、その後、白川飛鳥の案内で水雲亭の過去の帳簿と出納記録を大まかに確認した。
彼女は単に概要を把握したいだけで、帳簿に問題があるかどうかは実際気にしていなかった。なぜなら、これは井上財閥の帳簿であり、自分とは関係のないものだったからだ。今後の帳簿に問題が生じなければそれでよかった。
……
一週間後、足立区の再開発の噂が広まり、すぐに足立区の住民全員が知ることとなった。それどころか、東京の他の地区の人々にもその噂は伝わっていった。
この知らせを聞いた足立区の住民の大半は非常に喜んだ。再開発が何を意味するかは言うまでもない。多額の立ち退き料と、その後に無償で得られる移転先の住居は、長年苦しい生活を送ってきた足立区の住民にとって、一夜にして大金持ちになれる予兆だった。
しかし、一部の人々は喜ばなかった。その多くは年配者で、足立区で一生を過ごし、この生活様式に慣れ親しんでいた。都市計画局が突然、地区全体を取り壊して再建すると発表したことに、これらの高齢者たちは受け入れがたく、あるいは、どこへ行けばいいのか分からなかった。足立区を離れれば、彼らには行き場がなかった。
再開発事業は当然、東京の不動産業界の大手である馬場グループが担当することとなった。政府の号令に応え、政府と協力することは、馬場グループが東京で基盤を築いてきた根本であり、このような大規模なプロジェクトは馬場グループでなければ実現できないものだった。
鈴木夕は今日、職場で足立区の同僚たちがこの件について議論しているのを聞き、一日中落ち着かない気持ちで過ごした。仕事が終わるとすぐに、風のように家に駆け戻った。