第391話:この店は高い

「ラブレター」という言葉を聞いた途端、隼人の表情が凍りついた。

「もうその話はやめてくれ。手紙はそのまま返したじゃないか」進藤隼人は天然な表情で、焦ることも怒ることもなく、まるで気の短い人ではないかのようだった。

「じゃあ、私に食事に誘わせてよ。ご飯を食べたところで肉が減るわけじゃないでしょう!」河村麗月は頬を膨らませ、どうしても進藤隼人とランチを共にしたいという様子だった。

馬場絵里菜は傍らでそれを見ながら、この子は図太いなと心道った。ラブレターを返されても怒るどころか、むしろ攻めが激しくなっているように見える。

「いやだ」進藤隼人は河村麗月以上に直接的で、きっぱりと簡潔に断った。

「ちょっと!進藤隼人、私の顔を立ててくれないの!」河村麗月は目を見開き、信じられないという表情を浮かべた。

ラブレターを返されても怒らなかったのに、自分から食事に誘おうとしているのに、相手は全く感謝の気持ちもない。

やはり十代の少女だけあって、河村麗月は自尊心を傷つけられ、目が赤くなってきた。

馬場絵里菜は最初、手を出さずに隼人に自分で解決させようと思っていた。それも彼の感情知能の訓練になるはずだった。

しかし結果はというと、少女を泣かせてしまった。密かに額に手を当てながら、この従弟は時々本当に鈍感すぎて言葉を失うと思った。

せめて婉曲に断ればいいのに、いきなり「いやだ」と言って、相手を完全に追い詰めてしまった。

「あの、すみません」馬場絵里菜はタイミングよく口を開き、二人の傍らで静かに言った。「私は隼人の姉で、お昼は一緒に食べる約束をしていたので、あなたを拒否する意図があったわけではないんです」

河村麗月はその言葉を聞いて表情が固まり、馬場絵里菜をじっと見つめた。

第二中学校の制服を着て、階段教室の入り口にいることから、河村麗月は馬場絵里菜が数学オリンピックに参加しに来たのだろうと推測した。

なるほど、進藤隼人の姉なのか。

ほんの一瞬で、河村麗月の目に宿っていた敵意は消え去った。そうだよね、たとえ彼女だとしても、いきなり頬を触るなんてことはしないはず。なるほど姉だったから、進藤隼人とあんなに親密だったんだ。