第386章:家族の晩餐会(3)

井上お爺さんの井上裕人と井上雪絵兄妹への愛情は、井上家の誰もが知るところであり、その愛情の大部分が井上家長男の井上松と深く関係していることも分かっていた。

あるいは井上松への愛情が、彼の二人の子供たちに向けられたのかもしれない。

しかし井上松という名前は、もう何年もの間、誰も井上お爺さんの前で口にすることができなくなっていた。

井上家長男の井上松は、卓越した才能と鋭い手腕を持ち、本来は井上お爺さんが最も期待していた井上財閥の後継者だった。だが八年前、井上お爺さんが引退して悠々自適な生活を送ろうと、財閥を井上松に譲ろうとした矢先、井上松は突然姿を消し、まるで蒸発したかのように、一切の痕跡を残さずに去ってしまい、それ以来、二度と戻ってこなかった。

井上お爺さんはあらゆる手段を尽くし、動員できる人をすべて動員したが、結局彼を見つけることはできなかった。

そしてその時の井上裕人は、今の馬場絵里菜のように、わずか十四歳の子供で、井上雪絵は、5歳の誕生日を迎えたばかりだった。

幸いにも井上裕人は十分に優秀で、成長するにつれて、その優秀さは父親の井上松をも凌ぐほどになり、井上お爺さんの期待をはるかに超えるものとなった。

財閥に後継者がいることで、井上お爺さんは息子を失った心の痛みの中に、いくらかの慰めを見出すことができた。

これもまた、井上お爺さんが六十歳を超える高齢にもかかわらず、まだ引退していない理由である。

彼は待っているのだ。井上裕人が成長し、会社を任せられるほどの力量を持つその日を。

現在の井上裕人は二十二歳、井上お爺さんも還暦を迎えようとしており、そのため井上家の人々は皆、近いうちに井上財閥の新しい社長が交代することを理解していた。

「裕人、雪絵は今回帰国して、また留学する予定はあるのかい?」井上家次男がこの時、井上裕人に尋ねた。

「ありません。お爺さんも年なので、雪絵はお爺さんのそばで過ごしたいと言っています。今回帰国したら、東京の高校に通うことになります」と井上裕人は答えた。

井上お爺さんはそれを聞くと、たちまち満面の笑みを浮かべた。「やはり雪絵は思いやりがあるな。私のことを考えてくれて」

周りの人々はそれを見て、複雑な思いを抱いた。特に井上裕人の叔父である井上延と井上森は。