伊藤宏は後頭部を撫でながら、首を振った。「大丈夫、大丈夫」
話しながら、思わず馬場絵里菜の方を見やった。
馬場絵里菜もこちらの様子に気づいたらしく、ちょうど顔を上げて見てきたが、ただ軽く一瞥しただけで、すぐに視線を戻した。
伊藤宏の意図的な行動はクラスメートに気づかれ、隣の男子が伊藤宏の視線の先を追うと、三人の女子がいるのを見て、からかうように笑った。「おや、伊藤様、どの子が気になるんですか?」
普段からこの数人の男子が集まると、こういった話題は遠慮なく出るもので、伊藤宏はただ笑いながら、馬場絵里菜の方を顎でしゃくった。「左の子だよ!」
数人の男子が同時にその方向を見た。容姿に関しては、三人それぞれに特徴があり、異なるタイプだった。
ただ、他の二人と比べると、馬場絵里菜には何か淡々とした雰囲気があった。その雰囲気は微妙なもので、注意深い人だけが気づくようなものだった。