一方、伊藤春の家。
細田梓時と細田萌は朝食を食べていた。二人は進藤隼人と同じ学校で、第一中学に通っていた。
伊藤春は世田谷区に住んでいたが、現在はローズエンターテインメントの財務部長を務めており、勤務地は港区にあるため、毎朝二人の子供を学校に送ってから会社に向かっていた。
細田梓時が伊藤春のところに来てから、もう半月近くが経っていた。そしてこれだけの日数が経過したにもかかわらず、細田仲男からは一度も電話がなかった。
伊藤春は心の中で怒りを感じながらも、細田仲男に連絡を取ることはなかった。
以前は息子をあれほど溺愛していたのに、今や息子が家を離れて半月も経つのに、まったく気づいていないなんて。
考えるまでもなく、細田仲男はこの期間、おそらく家にも帰っていないのだろう。
食卓で、細田萌は食事をしながら、こっそりと細田梓時の様子を窺っていた。
細田梓時はそれに気づいたようで、顔を上げて細田萌を見た。「何を見てるんだ?」
細田萌は唇を噛んで、おそるおそる尋ねた。「お兄ちゃん、パパから電話はなかった?」
「ない!」細田梓時は不機嫌な表情を見せたが、激しい反応は示さなかった。
最初の数日間は怒りで食事も喉を通らなかったが、もう半月近く経ち、徐々に慣れてきていた。
それに伊藤春は彼をとても可愛がってくれて、毎日おいしい料理を作ってくれる。離婚後すっかり変わってしまった父親の細田仲男と比べると、細田梓時は心の底から母親と一緒にいる方が良いと感じていた。
細田萌がまた何か言おうとした時、細田梓時が突然口を開いた。「もし会いたいなら、自分で電話すればいいだろう。なんで俺に聞いてくるんだ?」
そう言いながら、細田梓時は自嘲気味に冷笑した。「でも息子の俺がいなくなったことにも気づかないんだから、今頃は娘のお前のことも完全に忘れてるんじゃないか。」
細田萌はそれを聞いて口を尖らせ、何も言わなかった。
伊藤春は階段を降りてきた時に息子の言葉を聞いて、思わずため息をついた。心の中で、細田仲男は酷すぎると思った。長年かけて息子の心の中に築いた慈父のイメージが、わずか数日で完全に崩れ去り、今では息子が父親のことを話すときは軽蔑的な態度ばかりだった。
伊藤春は細田仲男を憎んでいたが、息子の心の中で父親がこのようなイメージになることは望んでいなかった。