第427話:やばい、恋に落ちる感覚

その男を地面に倒れたままにして、菅野波は緊張した表情で店内に駆け込んだ。

店内は散らかり放題で、至る所に砕けたケーキとクリームが散乱していた。

そして馬場輝の腕から流れ出た血も!

井上雪絵は片手にモップを持ち、もう片方の手を腰に当て、息を切らしていた。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

菅野波は一歩前に駆け寄り、声を震わせながら言った。

もし井上雪絵に何かあったら、とんでもないことになるだろう。

井上雪絵はこの時ようやく落ち着きを取り戻し、気にしない様子で手を振った。「波おじさん、私は大丈夫よ。」

そう言いながら、モップを脇に投げ捨て、素早く馬場輝の前まで歩み寄った。彼の白いジャケットが切り裂かれ、血で袖が真っ赤に染まっているのを見た。

「怪我してる!」井上雪絵は眉をひそめながら身をかがめ、静かな声で言った。