第427話:やばい、恋に落ちる感覚

その男を地面に倒れたままにして、菅野波は緊張した表情で店内に駆け込んだ。

店内は散らかり放題で、至る所に砕けたケーキとクリームが散乱していた。

そして馬場輝の腕から流れ出た血も!

井上雪絵は片手にモップを持ち、もう片方の手を腰に当て、息を切らしていた。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

菅野波は一歩前に駆け寄り、声を震わせながら言った。

もし井上雪絵に何かあったら、とんでもないことになるだろう。

井上雪絵はこの時ようやく落ち着きを取り戻し、気にしない様子で手を振った。「波おじさん、私は大丈夫よ。」

そう言いながら、モップを脇に投げ捨て、素早く馬場輝の前まで歩み寄った。彼の白いジャケットが切り裂かれ、血で袖が真っ赤に染まっているのを見た。

「怪我してる!」井上雪絵は眉をひそめながら身をかがめ、静かな声で言った。

顔を上げると、馬場輝の視線と真正面からぶつかった。馬場輝は切れ長の目を持ち、肌は特に白く、顔立ちは凛々しくて男らしく、かっこよくて男性的な魅力に溢れていた。

そんな彼が今、血を流している姿は、まさにホルモンが爆発しているかのようだった。

井上雪絵は思わず胸がドキッとした。まずい、これは恋に落ちる感覚!

しかし馬場輝は特に大きな反応を示さず、ただ淡々と「大丈夫です」と言った。

彼が押さえつけていた泥棒はまだ井上雪絵の財布をしっかりと握っていた。馬場輝はそれを一気に奪い取って彼女に渡した。「あなたの財布です。」

「ありがとう!」井上雪絵は手を伸ばして受け取ったが、視線は馬場輝の顔から離れなかった。

見れば見るほど好きになっていく。

「この男は私に任せてください。傷の手当てをしてください!」菅野波が前に出て、諦めて抵抗をやめた泥棒を一気に引っ張り上げた。馬場輝もそれに合わせて立ち上がった。

この時になってようやく自分の怪我した右腕を見た。眉をひそめた。かなりの出血だった。

店長が急いで救急箱を持ってきた。「ここにガーゼと消毒液があります。とりあえず簡単に処置しましょう。こちらではすでに警察に通報しています。」

井上雪絵はそれを見るなり救急箱を奪い取った。「私がやります。」

馬場輝は椅子に座り、ジャケットを脱ぐと、たくましい腕が露わになった。