第426話:戦闘力爆発

その男は盗んだ財布をまだ手に握ったまま馬場輝に現行犯で捕まり、咄嗟に本能的に、手に持っていたナイフを振り上げた。

馬場輝は状況を見て急いで手を放して後ろに飛び退いたが、避けきれなかった。そのナイフは鞄を簡単に切り裂けるほど鋭利なものだった。

馬場輝の腕に明確な痛みはなかったが、冷たい感覚が走り、血が流れ出していた。

「あっ!」

男が突然刃物を振り上げたことで周囲の注目を集め、列に並んでいた女性たちは何が起きたのかわからないまま、血を見て驚きの声を上げ、四散した。

井上雪絵は最初に振り返った人物で、後ろの男が刃物を持っているのを見て驚いたが、その財布がどこか見覚えがあった。

それは自分の財布ではないか?

「お兄ちゃん、ちょっと用事が。また後で。」

井上雪絵は素早く電話を切り、急いで自分のバッグのジッパーを開けたが、バッグの底が切り裂かれているのを見た。

一瞬で何が起きたのか理解した。

二人の男は事態が露見し、さらに人を傷つけたことで、その場から逃げ出そうとした。

馬場輝はそれを見て、腕の傷から血が流れているのも構わず、飛びかかっていった。

その二人の男は体格が細く、183センチの馬場輝の前では全く歯が立たず、財布を持っていた男は背中に重みを感じ、店の外に逃げ出す前に馬場輝に後ろから組み伏せられた。

馬場輝は素早く、片手で相手のナイフを持つ手を押さえ、自分が傷つけられないようにし、膝で背中を押さえつけて、地面に動けないように押さえつけた。

もう一人の共犯はそれを見て焦り、馬場輝の頭を蹴ろうと足を振り上げた。

しかしその時、突然木製の椅子が飛んできた。井上雪絵は何処からそんな力が出たのか、入口にあった小さな椅子を投げつけたのだ。

「あたしの財布を盗むなんて、命が惜しくないのか!」

井上雪絵は叫びながら、手に持っていたケーキの載った盆も投げ、トングまで投げつけた。

まだ気が済まず、井上雪絵は周りの客のところまで走り寄り、彼らの皿に載っているケーキを掴んでは全て投げつけた。

その泥棒はトングで頭を打たれ、痛みで叫び声を上げ、反応する間もなく、顔面にクリームムースが直撃し、目に入った。

井上雪絵は左右を見回し、カウンター脇に立てかけてあったモップを見つけると、素早く近寄って掴むと突進していった。