期待していたのは、馬場絵里菜自身が武道に強い興味を持っており、最も重要なのは心法の修練に役立つからだった。
これまでは朝に庭で自主トレをしていたが、足立区の土道は凸凹で、風が強い日は砂埃が舞い、ジョギングさえ困難だった。
月島涼は今日も黒い服装で、気温は既に30度近くまで上がっているのに、暑くないのだろうかと思った。
「北区へ行こう!」と彼は言った。
「北区?」馬場絵里菜は驚いて、目を瞬かせた。
北区は、その名の通り東京の最北端に位置し、世田谷区よりも家から遠かった。
これは余りにも不便だ!
しかし月島涼は説明を始めた。「この数日間、東京中を探し回って、全ての武道館の中から最適な場所を選ぼうと思っていたんだが、意外なことに、東京全体で今も営業している純粋な日本武道の武道館は一軒しか残っていないんだ。」
「たった一軒?」馬場絵里菜は眉をひそめ、疑問に思った。「どうしてたった一軒なの?今の子供たちって、小さい頃からこういうのを習うんじゃないの?」
月島涼は頷いた。「以前はそうだった。多くの人が子供を小さい頃から武道場に通わせていた。でも2000年以降、テコンドーや柔道など多くの外国武道が日本に入ってきて、わずか2年で武道場市場を急速に侵食してしまった。」
「そして大半の日本武道の武道場は、競争と経済的圧力に迫られ、これらの外来武道も取り入れざるを得なくなった。この数日間訪れた武道場のほとんどが、日本武道と外国武道を同時に教える経営モデルになっていた。」
「今の東京には、外国武道を混ぜていない伝統的な武道場がこの一軒だけ残っているんだ。」と月島涼は言った。
馬場絵里菜は理解したように頷いた。前世では武道を習ったことはなかったが、周りの友人の子供たちの多くがテコンドーや柔道、フェンシングなどを習っていて、ある程度知っていた。
ただ、これらの外来武道が日本武道の伝承にこれほどの打撃を与えているとは思わなかった。東京のような大都市でさえ一軒しか残っていないなら、他の小さな都市の武道場は、さらに生き残る余地がないのではないだろうか?
「そこには行ったことあるの?」馬場絵里菜は尋ねた。
月島涼は首を振った。「これは昨日、あるテコンドー場の責任者から教えてもらった住所なんだ。今日は週末だから、門主と一緒に見に行こうと思って。」