夏目沙耶香は急いで手にある綺麗な贈り物の箱を背中に隠し、ツンデレな表情で言った。「ダメ!後で渡すわ!」
彼女にとって、誕生日のプレゼントは儀式的なものでなければならず、こんな街中で軽々しく渡すわけにはいかないのだ。
馬場絵里菜は微笑んで、みんなを中に招き入れた。
夏目沙耶香と藤井空も月島涼の姿を見かけた。この二日間、月島涼は馬場絵里菜と一緒に登下校していて、二人は彼らが今では友達になったことを知っていた。ただ、この誕生日会に月島涼が来るとは馬場絵里菜は言っていなかった。
しかも彼は変わった人で、以前自分から挨拶しても反応がなかったので、今回は挨拶する気も起きなかった。
男子たちが前を歩き、夏目沙耶香は後ろで馬場絵里菜の腕を組み、声を潜めて尋ねた。「どうして彼も来たの?」
馬場絵里菜は月島涼の後ろ姿を見て、静かに答えた。「私が誘ったの。今は私の友達だから。」
夏目沙耶香は意味深な表情を浮かべ、ゴシップ好きな心が燃え上がりそうになったが、今日は馬場絵里菜の誕生日だと思い出し、それを抑え込んで追及するのを控えた。
誕生日の主役が一番大事。馬場絵里菜が馬場依子を誘っても、何も言うつもりはなかった!
もちろん、夏目沙耶香はそんなことはありえないと知っていた。
エレベーターは最上階の32階まで直行し、ドアが開くと、エレベーターホールで客を出迎えるウェイターが近づいてきた。
「華鼎回転レストランへようこそ。ご予約はございますか?」
馬場絵里菜は頷いて答えた。「はい、馬場絵里菜です。」
ウェイターは言った。「かしこまりました。こちらへどうぞ。」
回転レストランは360度全面がガラス張りで、東京の華やかな街並みが一望できた。
90分で一周する速さで回転し、ちょうど一回の食事時間に相当する。速度が遅いため、窓の外の景色の角度が変わっていなければ、レストランが回転していることにほとんど気付かない。
ウェイターは受付で馬場絵里菜の予約を確認し、一行を眺めの良い長テーブルへと案内した。
馬場絵里菜は初めての来店で、この高級で清潔な食事環境に大変満足していた。
みんなが席に着いたところで、高橋桃も到着した。意外なことに、彼女は一人ではなく、高遠晴と一緒だった。