しかし今日、井上雪絵は身支度を整え、新しい服に着替えて、外出する準備をしていた。
お兄さんのことをこれ以上考え続けると、恋煩いになってしまいそうだった。
それに、ずっと家に閉じこもっていても、お兄さんが天から降ってくるわけでもない。だから井上雪絵は外に出て気分転換をしようと思った。もしかしたら、お兄さんとの縁がまだ尽きていないかもしれないし、また会えるかもしれない。
ちょうど今日、相原達也から電話があり、夜一緒に遊びに行こうと誘われ、井上雪絵は喜んで承諾した。
服を着替えて、井上雪絵は階段を駆け下りた。お爺さんはリビングでお茶を飲んでいたが、孫娘の様子を見て、すぐに立ち上がって心配そうに尋ねた。「雪絵や、こんな遅くにどこへ行くんだ?」
「お爺ちゃん、達也お兄さんと遊びに行くの」井上雪絵は言いながら、玄関で靴を履き始めた。
井上お爺さんは心配そうに後を追い、壁の時計を見て言った。「もう10時近いぞ。明日の昼間に行ったらどうだ?」
「お爺ちゃん、心配しないで。夜の方が楽しいのよ」井上雪絵は口を尖らせて、甘えるように言った。「私、毎日家にいて病気になりそうなの。ちょっと外の空気を吸わせて。お酒は飲まないし、無事に帰ってくるから」
そう言うと、すぐに豪邸の玄関を開け、大股で外に向かった。
お爺さんは玄関まで追いかけ、井上雪絵の後ろ姿に向かって叫んだ。「じゃあ、波に車で送らせるぞ!」
井上雪絵は振り返りもせずに手を振った。「いいの、タクシーで行くから。お爺ちゃんは早く家に入って。私を待たずに早く寝てね!」
お爺さんは玄関に立ち、孫娘の姿が夜の闇に消えるまで見送り続けた後、ゆっくりと中に戻り、玄関の扉を閉めた。
東京は日本で最も繁華で現代的な都市の一つとして、夜の生活も多彩で、バー、クラブ、スパなど様々な娯楽施設が軒を連ねていた。
港区は、華やかな灯りと贅沢な雰囲気に包まれていた。
ミューズバーの外で、清楚で物静かな様子の青年が道端に立ち、時折左右を見回しながら、誰かを待っているようだった。
この人物は相原佑也の実弟である相原達也だった。両家は代々の付き合いがあり、相原達也と井上雪絵は幼い頃から一緒に育った。井上雪絵が3年前に留学に行くまで、そして今や3年ぶりの再会となるが、その間もメールで頻繁に連絡を取り合っていた。