その時、山田燕は細田次郎に向かって笑みを浮かべながら、「龍栄の賃貸期間がもうすぐ終わるんじゃないか?」と切り出した。
細田次郎は頷いて「どうしたんだ?」と尋ねた。
「細田、聞いてくれ」山田燕は狡猾な表情で前に身を乗り出した。「龍栄の今の状況は分かっているだろう。もう長くは持たないはずだ。今年の家賃も払えないんじゃないか!」
細田次郎はそれを聞くと、すぐに説明しようとした。「中川さんが言っていたんだが、彼は…」
話の途中で山田燕に遮られた。「そうだ、中川も大変なんだろう。結局、その道場は中川家が何年も借りてきたんだからな。閉鎖したくないのは分かる。でもお前は大家だろう?これで稼いでいるんじゃないのか?家賃が払えないなら、建物を返してもらうしかないだろう!」
「ほら…」山田燕はついに本題に入るようで、鼠のような目を輝かせながら、細田次郎に暗示的な視線を向けて言った。「龍栄が出て行った後、私に貸してくれないか?」
「お前に?」細田次郎は驚いた様子で固まった。
山田燕は傲慢そうに顎を上げた。「見ただろう?私の振華道場は毎年の新入生の数が増えていて、もうすぐ収容しきれなくなる。それに、総合格闘技やボクシングの部門も拡充したいと思っているんだ。今の建物では足りない。」
「どうせ龍栄は家賃を払えないんだから、私に貸してくれれば水に流すような感じだろう?二つの建物の壁を壊して、一つにして全部振華にする。その時は家賃もちゃんと払うよ!」
この時、細田次郎はようやく気付いた。山田燕はこんな魂胆だったのか!
理屈から言えば、もし龍栄が今年家賃を払えないなら、新しい借り手を探さなければならない。その場合、他人に貸すのと山田燕に貸すのとで大差はない。それどころか、山田燕に貸せば面倒な手続きも省けるだろう。結局は古くからの付き合いなのだから。
しかし今年は違う。龍栄道場はすでに家賃を早めに用意していたのだ。この山田館長の思惑は実現しそうにない。
細田次郎は首を振って言った。「山田館長、あなたの言いたいことは分かりました。ただ、今年は拡張は無理でしょう。確かに私は今日、龍栄に家賃のことを確認しに行きましたが、中川さんはすでにお金を用意していて、今年も借りるそうです!」