道場の中庭で、中川彰は中年の男性と話をしていた。
中年の男性は細田大志という名前で、細田次郎というあだ名を持っていた。名前は良くないように聞こえるかもしれないが、彼は紛れもない億万長者で、この近辺の十数軒の武道場の建物は全て細田次郎の先祖から受け継いだものだった。
この細田次郎は他に何もする必要がなく、ただどの武道場の年間賃貸契約が切れるのを待って賃料を集めに行くだけだった。他の人を雇う必要もなく、一人で簡単にこなせ、年間数千万円の家賃が全て自分のポケットに入っていた。
これはまだ不動産業界が過熱していない時期の話だ。数年後、日本の不動産が発展すれば、東京は必ず土地の価値が上がり、この一帯が再開発の対象になれば、この細田次郎の資産は一瞬で十億円を超えるだろう。
「本当ですか?」
細田次郎は中川彰が期日通りに家賃を支払うと言うのを聞いて、疑わしげな表情を浮かべた。
彼がこのような反応をするのも無理はない。龍栄道場の経営状態がどうなのかは、この近所の人々は皆知っていた。まして家主である彼ならなおさらだ。
去年の家賃も一ヶ月の猶予を与え、中川彰があちこちから工面してようやく支払えたのだった。
中川彰は頷いた。「大志さん、ご心配なく。お金は用意してあります。期日が来たら、取りに来ていただければ結構です。」
中川彰は細田次郎というあだ名では呼ばず、本名で呼んでいた。これは彼が正直な人柄であることを示している。
長年の付き合いで、細田次郎は中川彰のことを豊少なからず理解していた。嘘をつくような人間ではないと分かっていたので、頷いて、ため息をつきながら言った。「分かりました。中川さんがそう言うなら安心です。他の武道場の家賃は今年も通常通り値上げしますが、あなたの道場は経営も上向いていないようですから、今年は値上げしません。ただし、他の人には言わないでください。そうでないと、他の道場から文句を言われてしまいますから!」
「ありがとうございます。大志さんのご配慮に感謝します。今度お酒でも飲みに行きましょう。」中川彰はそう聞いて、笑顔で答えた。