第506話:母さんに近づくな!

細田登美子は振り返る動作が止まった。

鈴木強はそれを見て、急いで付け加えた。「どうあれ、直接彼と決着をつけたほうがいいでしょう!」

さすがはビジネス界の古株だけあって、鈴木強は言葉の刺激具合まで絶妙に調整していた。

「決着」という言葉は、まさに細田登美子の神経を刺激した。

そうだ、何事にも決着をつけなければならない。十数年前の馬場長生の離別が二人の決着だと思っていたのに、まさか十数年後、彼が再び自分の人生に入り込んでくるとは!

車の中の馬場長生は遠くの光景をずっと見つめていた。会話は聞こえなかったものの、細田登美子の表情と先ほどの帰ろうとする動作から、話し合いが上手くいっていないことが分かった。

彼は今、間違いなく緊張していた。というより、こんなに緊張したのは久しぶりだった。

次の瞬間、細田登美子が鈴木強の後ろから車の方へ歩いてくるのが見えた。

心臓が一拍飛び跳ねた。馬場長生は慌ててシートベルトを外し、ドアを開けて車から降りた。

「登美子!」会うなり、馬場長生は不安げな声で挨拶し、目は思わず遠くにいる馬場輝の方をちらりと見た。

細田登美子はサングラスを外し、魅力的な目で馬場長生をまっすぐ見つめ、そっけない口調で言った。「強が言うには、私が直接あなたと決着をつけるべきだそうよ。」

馬場長生は言葉に戸惑いを見せた。細田登美子の言葉が続いた。「実は、これだけの年月が経って、私たちの間にはもう何の関係もないと思っているわ。決着をつけるというレベルですらない。ただ、これからは二度と現れないでほしいの。私も子供たちも、とても幸せに暮らしているわ。あなたがいなくても、子供たちは無事に成長し、二人とも優秀よ。でも、それはあなたとも馬場家とも何の関係もないことなの!」

別れた最初の二年間、まだ馬場長生のことを忘れられず、彼が戻ってくることを期待していなければ、二人の子供に馬場という姓をつけることはなかっただろう!

馬場長生はその言葉を聞いて、心が凍りつくような思いがした。

口を開けたり閉じたりしながら、急いで言った。「登美子、君たちの生活を邪魔するつもりはない。ただ子供たちに会いたいんだ。親子の関係を認めなくてもいい、ただ一目見させてくれるだけでいい!」