東海不動産の財務部のオフィスでは、数人の同僚が仕事をしながら、気軽に雑談をしていた。
細田芝子は会社に来てからしばらく経っており、最初は年配の出納係が彼女を指導していたが、今では出納の仕事に完全に慣れ、一人で処理できるようになっていた。
オフィスのドアが開き、馬場絵里菜が入ってきた。
皆が反射的に顔を上げ、突然の馬場絵里菜の姿に一瞬驚いた後、我に返った。
「社長!」
従業員たちは急いで馬場絵里菜に挨拶をしたが、馬場絵里菜は笑顔で手を振り、気にせず仕事を続けるように合図した。
細田芝子のデスクに直接向かうと、芝子は小声で尋ねた。「どうしてここに?」
馬場絵里菜は微笑んで答えた。「ちょっと用事を伝えに来て、ついでにあなたに会いに来たの。」
話しながら、馬場絵里菜は何気なく財務部を見渡した。オフィスは南向きで、昼間は日当たりが良く、見晴らしも良かった。
そして芝子に尋ねた。「おばさん、慣れた?」
細田芝子は笑顔で頷いた。「慣れたわ、全て順調よ。私のことは心配しないで。」
以前はアパレル工場で働いていて、毎日忙しく、一瞬も休む暇がなく、週末の休みなど望むべくもなかった。
今は東海不動産に来て、毎月三千元の給料だけでなく、様々な福利厚生と週末休みもあり、細田芝子は非常に満足していた。以前と比べると、夢にも思わなかったような良い仕事だった。
「輝から聞いたけど、北区の武道場で武術を習っているの?」細田芝子が突然尋ねた。
進藤峰は北区の出身で、細田芝子の義母の家族も北区にいたため、北区の武道場については知っていた。
馬場絵里菜は頷いた。「そうよ。夏休みも暇だし、何か学ぶのはいいことでしょう。」
「私も賛成よ。」細田芝子は話題を隼人に向けた。「弟は毎日家で本ばかり読んで、外にも出ないでしょう。私が思うに、あなたが彼も武道場に連れて行ったらどう?このままじゃ体を壊すんじゃないかって心配で。運動するのはいいことだと思うわ。」
馬場絵里菜はその言葉に思わず笑みを漏らした。「隼人はまだ小さいのに、もう体を壊すって心配するの?今時、隼人みたいに休みの日も本を読む子供なんて珍しいわ。おばさん、心配しすぎよ。」
実際は細田芝子が心配しすぎているわけではなく、馬場絵里菜が隼人を武道場に行かせたくないだけだった。