馬場絵里菜は橋本通を見つめ、意味深な表情を浮かべていた。
橋本通は馬場絵里菜を見て、苦笑いを浮かべた。
その太った男は言い終わってから、急に雰囲気がおかしいことに気づいた。目の前の二人の無言のやり取りは、なんだか変だった。
しばらくして、馬場絵里菜は眉を上げて橋本通に尋ねた。「あなたが契約したの?」
その口調は軽く聞こえたが、暗に詰問の意味が込められていた。橋本通は心の中で「ドキッ」として、社長が怒っているのかと不安になった。
すぐさま、まるで売薬を売り込むかのように、首を振り子のように振って否定した。「違います違います、私は関係ありません。これは会社のスカウトマンが歯磨き粉の撮影現場で見つけた新人で、見た目がよくて将来性があると思って、契約したんです。」
「ふん……」馬場絵里菜は思わず嘲笑した。「大物かと思ったら、結局スカウトマンが路上で拾ってきただけ?」
そう言いながら、馬場絵里菜はゆっくりと立ち上がり、意識的に細田銘夫を見た。
なるほど、確かにスター性はある。若い頃の陸田隆よりも三割増しでイケメンだ。ただ惜しいことに、性格が歪んでいる。
「クビ!」
たった二文字で、細田銘夫の運命が決まった。
馬場絵里菜が冷酷なわけではない。ただ、彼が今日残した印象があまりにも最悪だった。まだ新人のくせに自分をスターだと思い込むような浮ついた性格は、将来必ず会社に問題を引き起こすだろう。
ただし、彼のルックスなら、いずれ他の事務所と契約できるだろう。ただ、この事務所は小さすぎて、この大物様を受け入れる器ではない。
そう言って、馬場絵里菜は顔も上げずに橋本通のオフィスへ向かった。ただし、細田銘夫の傍を通り過ぎる時、一瞬足を止めた。
心の中で考えを巡らせ、馬場絵里菜は結局何も言わずに立ち去った。
二言三言アドバイスしようと思ったが、考え直してやめた。他人のことだし、それに彼は若い女の子である自分を相手にしないだろう。
それに、すでに契約解除を言い渡したのに、今さら良い人ぶるのも。殴っておいて飴をあげるようなことは、馬場絵里菜にはできなかった。
馬場絵里菜の去っていく後ろ姿を見て、細田銘夫はその場に呆然と立ち尽くし、何が起きたのかまだ理解できていないようだった。