中庭を出ると、馬場長生は自分の高価なスーツのことなど気にもせず、外の人混みを強引に素早くかき分けて進んだ。
目を上げると、馬場輝の姿はすでに遠くまで行ってしまっていた。馬場長生はその場に立ち尽くし、口を開きかけた。心の中では馬場輝の名前を呼びたい衝動が何度も湧き上がったが、最後には頭の中に残されたわずかな理性が、喉元まで出かかった声を飲み込ませた。
このような状況で無理に身元を明かせば、計り知れない結果を招くことになるだろう。
馬場輝が父親である自分の存在を知っているかどうかはさておき、少なくとも登美子の意思は尊重しなければならない。これ以上登美子に嫌われるわけにはいかなかった。
しばらくの間は足立区に来る機会が多くなるだろう。また登美子に会えるチャンスがあるかもしれない。諦めるつもりはない、必ず登美子との関係を取り戻すために努力を続けるつもりだ。
そう考えながら、馬場長生は目に宿った寂しさを隠し、まばたきもせずに馬場輝の消えていく後ろ姿を見つめていた。
馬場輝は馬場長生が一体誰なのか知らなかった。ただ最近母親に付きまとっていた男だということと、今回突然足立区に現れたのは再開発プロジェクトと関係があるらしいということだけを知っていた。
心配になった馬場輝は、帰宅するとすぐにキッチンへ向かい、細田登美子を探した。
細田登美子はちょうどスイカを切っているところで、馬場輝の表情が暗いのを見て、手を止めて心配そうに尋ねた。「どうしたの、輝?」
「母さん、この前母さんに付きまとっていた男に会ったよ」キッチンはリビングに近かったため、馬場輝はできるだけ声を抑えて話した。
細田登美子はすぐには反応できず、一瞬呆然とした。「え?誰?」
「あの日、センチュリーマンションの前で僕が殴った男だよ!」馬場輝が言った。
細田登美子の頭の中で「ビクッ」と何かが走り、手の包丁が落ちそうになり、心臓も急に早鐘を打ち始めた。
「あの人が...あなたに話しかけてきたの?」細田登美子は必死に自分を抑え、声が震えないようにした。
しかし彼女の心の中は極度の緊張と不安で一杯だった。馬場輝が馬場長生の正体を知ったら、どうなってしまうのか想像もできなかった。
幸いなことに、馬場輝は首を振った。「僕は彼を見かけたらすぐに立ち去ったけど...でも、彼は僕を見たみたいだ」