「お姉ちゃん?」
細田芝子の声が突然後ろから聞こえ、細田登美子は驚いて、「ガチャン」という音と共に、手にしていた包丁が大理石のカウンターに落ちた。
細田芝子はその様子を見て、急いで前に進み出た。「どうしたの?大丈夫?」
細田登美子は少し慌てた様子で包丁を拾い上げたが、目は少し泳いでいた。
首を振りながら、落ち着いているふりをして言った。「大丈夫よ」
「さっき輝の顔色があまりよくなかったけど、何かあったの?」細田芝子は心配そうに、姉の様子もどこか普段と違うように感じた。
普段の姉はとても楽観的な性格で、こんな表情を見せることは滅多になかった。
細田登美子は今、少し俯いていた。心の中で不安を必死に抑えようとしていたが、馬場長生が今足立区にいて、自分の家から近いところにいると考えただけで、抑えきれない不安に襲われた。