第559章:井上雪絵の望夫石

向かい側には、体格の良い波さんが座っていて、がっしりとした体つきが小さな革張りの椅子に収まっており、まるで巨大なバービー人形のようだった。

目の前には、まったく手をつけていないピンクフォレストケーキと、すでに空になったアメリカンコーヒーがあった。

波さん本人は甘いものが好きではなかったが、ただ座っているだけでは店の資源を無駄遣いしているような気がして、人道的な配慮から雪絵さんが注文したケーキを受け入れた。しかし、それがあまりにもピンクすぎて手を出す気にもなれない少女向けのケーキだったとは思いもよらなかった。

井上雪絵は前回のバーでの出来事で額に怪我を負い、今では痂皮は剥がれたものの、まだ完治していない白い跡が微かに見え、エアバングで軽く隠していた。

前回の事件以来、彼女は一時的に兄の家に住むことになった。昼間は兄が不在で、祖父が付けてくれた運転手の波さんと二人きり。頭に包帯を巻いて外出もできず、広々とした別荘は妄想を膨らませるには最適な場所だった。