向かい側には、体格の良い波さんが座っていて、がっしりとした体つきが小さな革張りの椅子に収まっており、まるで巨大なバービー人形のようだった。
目の前には、まったく手をつけていないピンクフォレストケーキと、すでに空になったアメリカンコーヒーがあった。
波さん本人は甘いものが好きではなかったが、ただ座っているだけでは店の資源を無駄遣いしているような気がして、人道的な配慮から雪絵さんが注文したケーキを受け入れた。しかし、それがあまりにもピンクすぎて手を出す気にもなれない少女向けのケーキだったとは思いもよらなかった。
井上雪絵は前回のバーでの出来事で額に怪我を負い、今では痂皮は剥がれたものの、まだ完治していない白い跡が微かに見え、エアバングで軽く隠していた。
前回の事件以来、彼女は一時的に兄の家に住むことになった。昼間は兄が不在で、祖父が付けてくれた運転手の波さんと二人きり。頭に包帯を巻いて外出もできず、広々とした別荘は妄想を膨らませるには最適な場所だった。
お兄さんと離れた一日目、彼が恋しい……
お兄さんと離れた二日目、彼が恋しい、恋しい……
お兄さんと離れた三日目、頭を怪我して入院+彼が恋しい……
お兄さんと離れたN日目、彼が恋しい、恋しい、相変わらず恋しい……
包帯を外した後、井上雪絵はお兄さんと出会ったこのスイーツショップに毎日通うようになった。二人の縁はまだ尽きていないと信じ、必ずまた会えると思っていた。
しかし、もう二週間近く経つのに、お兄さんが再びこの店に来る姿を一度も見かけていない。
最初は首を長くして待っていたが、今では徐々に心が折れかけている。でも、お兄さんの姿を思い浮かべると、また全身に力が湧いてくるような気がした。
このように、井上雪絵は毎日ここに座って待ち続け、一日中座っているうちに、まるで夫を待つ石像のようになっていった。
近くの二人の店員がこっそり見てきては、顔を見合わせて首を振り、やや困ったような表情を浮かべていた。
「グゥ~」
はっきりとお腹が鳴る音が聞こえ、波さんは慌てて自分のお腹を押さえた。
井上雪絵は彼の方を振り向き、前のケーキが全く手付かずなのを見て、小さくため息をついた。「ごめんね波さん、甘いものはあまり好きじゃないみたいね。」