第570話:人は紙で作られているのか?

「孝宏、無礼はいけない!」

中川彰は冷たく声を出した。彼らは師弟関係を重んじており、いかなる場合でも西野孝宏は後輩であり、山田燕にそのような口の利き方はできないのだ。

ましてや、自分という師匠がいるのに、弟子が人に虐められるのを許すわけにはいかないだろう?

中川彰は鈴木墨を見つめ、尋ねた。「墨、一体何があったのか話してくれ。」

鈴木墨はすぐに答えた。「あの日、私と数人の師弟、そして平野青師妹と一緒に、新入りの師妹と師弟を湘南亭に招待して、龍栄道場への歓迎会を開いていました。ところが、振華道場の連中と出くわしてしまい、彼らは私たちを冷やかし、龍栄と私たちを侮辱する言葉を投げかけてきました。そして師妹が我慢できなくなり、相手の一人に手を出したのです。」

そう言うと、鈴木墨は不満げな表情で振華の一行を睨みつけ、中川彰に向かって続けた。「師匠、彼らが度を越していたのです。私たちは事を荒立てないよう、師匠の教えを守ろうとしましたが、相手が図に乗って、自ら喧嘩を売ってきたのです!」

鈴木墨がどんな性格かを、中川彰は誰よりもよく知っていた。彼の言葉には嘘偽りがないはずだ。

軽く頷いた中川彰は、不機嫌な表情で山田燕を見つめ、言った。「山田、今の話を聞いただろう。お前の弟子が先に事を起こしたのだ。少し懲らしめられたのは当然だろう!」

「確かに我が龍栄は寂れているかもしれないが、それでも東京の日本武道の最後の聖地なのだ。これまでの噂話には目をつぶってきたが、だからといって龍栄が虐められていいわけではない!」

「それに、こういった出来事は武道場間でよくあることだ。こんな大げさな態度で押しかけてくるとは、何だ?私の道場を素手で壊すつもりか?」

最後の言葉は、中川彰の声音が氷のように冷たくなっており、明らかに怒りを感じていた。

山田燕は中川彰の言葉を聞いて冷笑した。「中川彰、お前の言い方は随分と軽いな。確かに、道場間の弟子たちは若気の至りで、出会えば腕比べをしたがる。だが、たとえ私の弟子に非があったとしても、お前たちの弟子は手加減を知らなさすぎる。」

そう言いながら、山田燕は隣にいた少年を引っ張り出し、冷たく言った。「私の弟子は病院で十日以上も寝込んでいたのだ。一言で済ませようというのか?そんなわけにはいかん!」