第582話：まさか他人の下で働いているのか？

白川昼は淡々とした表情で頷き、麻生直人を見て微笑んだ。「麻生さん、ご心配をおかけしました。今度時間があれば、個人的に食事でもご馳走させていただきます」

白川昼のこの言葉は単なる社交辞令ではなく、本当に相手に食事を御馳走しなければならないと思っていた。結局のところ、相手は彼に多くの助けを与えてくれたのだから。

しかし、この言葉を麻生直人が聞くと、それが社交辞令であれ本心であれ、十分に恐縮するものだった。クース王子が自ら食事に誘ってくれるなんて、たとえ実現しなくても、十分自慢できることだった。

「白川さん、そこまでご丁寧に。あなたの不動産会社が開発しているプロジェクトは、我が東京にとって有益なものばかりです。私たちとしても当然支援させていただきます」と麻生直人は謙虚に答えた。

言葉が落ちると、麻生直人は少し躊躇した表情を見せ、最後には心の中の疑問を口にした。「ただ、白川さん、失礼ながら一つお伺いしたいのですが、なぜ突然東京に投資しようと思われたのでしょうか？」

この疑問は、麻生直人が白川昼に初めて会った時から抱いていたものだった。クース国は現在も君主制を維持しており、一見古い国のように聞こえる。しかし誰もが知っているように、クース国は非常に発達した国で、年間のカラーガラスの輸出だけでも天文学的な利益をクース国にもたらしている。

クース王子である白川昼の資産は当然何億もの規模だ。彼が東京で不動産会社を経営することで得られる利益は、彼自身の資産に比べれば、九牛の一毛にも満たないだろう。

白川昼はその言葉を聞いて、軽く麻生直人を見つめた。

麻生直人はその様子を見て、本能的に緊張し、思わず口を開いた。「お答えしたくないようでしたら結構です。単なる好奇心からの質問で、白川さんの事情を詮索するつもりはありませんでした」

白川昼は軽く手を上げ、そこまで緊張する必要はないと示してから、ゆっくりと話し始めた。「実は、この会社は私のものではありません。私にとって大切な人の名義の事業で、私は彼女の代わりに仕事をしているだけです」

その一言で、麻生直人は驚いて目を見開き、'聞き間違えたんじゃないか'という表情を浮かべた。

クース王子が他人のために働く？それも、こんなにも真面目に、一生懸命に！