第599章:比類なき伊藤春

細田芝子は新しいイメージに変身し、気分も特別に良くなり、手の買い物袋を置かずにその場でくるりと回って言った。「息子、ママ綺麗でしょう?」

進藤隼人は口を少し開けたまま、目を見開いて呆然としていたが、その言葉を聞いて素直に頷いた。「綺麗!」

進藤峰はこの時、自分の妻を見つめる目が輝いていて、上から下まで見渡しながら褒めた。「綺麗だよ、奥さん。綺麗...本当に綺麗!」

この時、教養不足の短所が露呈した。進藤峰は「綺麗」としか言えず、他の形容詞を知らなかった。

でも「綺麗」という一言で、全てを表現できていた。

実は進藤峰は非常に優しい良い夫で、結婚したばかりの頃から、女性は化粧品などが好きだと思い、給料をもらうたびに、こっそり細田芝子に口紅やアイブロウなどを買っていた。

しかしその頃は家計が苦しく、細田芝子はアパレル工場の作業場で朝から晩まで太陽も見られない日々を送っていて、自分を綺麗に着飾る時間なんてなかった。進藤峰が何度か買ってきても、その度に細田芝子に諭された。

無駄遣いだと言われ、自分には必要ないと言われた。

それからは進藤峰も買うのを止めた。

実際、美しくなりたくない女性なんていない。ただ当時は環境に迫られ、食べていけるだけでも良しとする状況で、他のことなど考える余裕がなかったのだ。

今や、家計も良くなり、細田芝子の本性も解放された。外出から帰ってきた彼女は、まるで生まれ変わったかのように、進藤峰は初めて妻に会ったかのように、目が飛び出しそうなほど驚いていた。

一方、伊藤春は二人を家まで送り届けると、そのまま車を世田谷区の自宅へと走らせた。

別荘のリビングには明かりが付いていて、伊藤春は車をガレージに停めてから、たくさんの買い物袋を持って家に入った。

「ママ?」

驚きの声が上がった。まるで進藤隼人が細田芝子を見た時と同じような声色だった。

知らない人が家に入ってきたと思われても不思議ではないほどだった。

玄関で靴を脱いでいた伊藤春は声を聞いて顔を上げ、細田萌を見ると軽く微笑んで、ウェーブのかかった長い髪を軽く振った。「綺麗でしょう?」

伊藤春は細田芝子と同じウェーブをかけていたが、色は少し落ち着いたグレープパープルを選んでいた。一見すると黑髪に見えるが、太陽の光や照明の下でのみ、かすかな紫色が見えた。