細田芝子は新しいイメージに変身し、気分も特別に良くなり、手の買い物袋を置かずにその場でくるりと回って言った。「息子、ママ綺麗でしょう?」
進藤隼人は口を少し開けたまま、目を見開いて呆然としていたが、その言葉を聞いて素直に頷いた。「綺麗!」
進藤峰はこの時、自分の妻を見つめる目が輝いていて、上から下まで見渡しながら褒めた。「綺麗だよ、奥さん。綺麗...本当に綺麗!」
この時、教養不足の短所が露呈した。進藤峰は「綺麗」としか言えず、他の形容詞を知らなかった。
でも「綺麗」という一言で、全てを表現できていた。
実は進藤峰は非常に優しい良い夫で、結婚したばかりの頃から、女性は化粧品などが好きだと思い、給料をもらうたびに、こっそり細田芝子に口紅やアイブロウなどを買っていた。
しかしその頃は家計が苦しく、細田芝子はアパレル工場の作業場で朝から晩まで太陽も見られない日々を送っていて、自分を綺麗に着飾る時間なんてなかった。進藤峰が何度か買ってきても、その度に細田芝子に諭された。