第612章:雷の恐ろしい能力

しかし、馬場絵里菜の「慈悲深い」提案に対して、カールは感謝するどころか、むしろ侮辱されたと感じた。

ヘレナとジョージも同様だった。

彼らは世界の最も暗い隅々を渡り歩く殺し屋であり、毎回の任務に死を覚悟して臨み、たとえ失敗しても組織に命を捧げる覚悟を常に持っていた。

手に入れた標的を手放すなど?それは殺し屋としての職業的尊厳を侮辱するものに他ならない。

命など、彼らの目には最も価値のないものだった!

「欲しければ、実力で奪え!」カールは冷たく言い放ち、両足を肩幅に開き、いつでも戦える態勢を整えた。

馬場絵里菜はその様子を見て、眉を軽く寄せ、ほぼ一瞬で相手との交渉を諦めた。先ほどのカールの口調と、彼らの目に宿る決意から、言葉だけでは全く効果がないことを悟ったのだ。

穏便に事を収めようと思ったが、今となっては、面倒事に巻き込まれたくなくても、彼らのやり方で決着をつけるしかなくなった。

一歩後ろに下がり、馬場絵里菜は低い声で言い付けた。「人質を傷つけるな。」

その言葉が合図となり、次の瞬間、月島涼はその場から瞬時に消え去った。その速さたるや、立っていた場所に徐々に消えていく残像さえ残した。

周囲の気圧が突然危険な雰囲気を帯び、カールたちは月島涼の奇妙な身のこなしに大いに驚きながらも、十二分の警戒を怠ることはできなかった。黒衣の少年は今や姿を消していたが、彼らは皆、相手が本当に消えたわけではなく、周囲を高速で移動しているだけだと知っていた。ただ、その速さがあまりに速すぎて、捕らえることができないだけだった。

この時、彼らは完全に確信した。この黒衣の少年も、雷と同じ異形の存在なのだと。ただし、二人の特殊能力は異なるものだった。

「雷、出番だ!」カールは雷に向かって声をかけた。

明らかに、月島涼の強さは、彼らの切り札を使わざるを得ないほどのものだった。

雷はその言葉を聞くと、口角にかすかに不気味な笑みを浮かべ、体内に秘めた強大な力が一気に噴出した。彼の青い髪が完全に逆立ち、髪の間には白い電流が一筋一筋はっきりと流れ、「パチパチ」という鋭い音を立てていた。

この光景を目にした馬場絵里菜たちも、大いに驚かされた。

この青髪の男には、このような常人を超えた能力があったのか?