第621話：この世界は本当に小さい

この考えは古谷始と星野離の二人を震え上がらせた。

もしそうだとしたら、上司の妹が目の前で誘拐されたのに、彼らは何もできなかったということになる。

確かにあの状況では、彼らにできることは何もなかったのだが。

古谷始はスリッパを履いていたため、追いかけても無駄だった。

そして今、古谷始が最も気になっているのは、事件発生後、ずっと広場で絵里菜の帰りを待っていたが、結局彼女は戻ってこなかったことだ。絵里菜に電話をかけても、ずっと繋がらなかった。

もし今日の昼に遭遇した事件が上司の言う事件だとすれば、絵里菜が自転車で追いかけた車の中には、暗殺機関のトップクラスの殺し屋がいたということになる！

この考えが浮かんだ瞬間、古谷始はソファから飛び上がった。

ずっと絵里菜と連絡が取れないことだけでも不安だったが、自転車が車に追いつけるはずがないと自分に言い聞かせ、絵里菜は他の用事があって広場に戻れなかったのだろうと思っていた。

しかし今となっては、古谷始はもう冷静でいられず、自転車と車のどちらが速いかなど考える余裕もなかった。相手は暗殺機関の人間だ。人を殺すことなど平気な連中で、もし絵里菜が出くわしたら、考えるだけでも恐ろしい！

星野離は古谷始の突然の反応を見て、彼の心配を理解し、軽く手首を叩いて諭すように言った。「慌てるな、上司の話を最後まで聞こう。」

井上裕人は眉をしかめ、古谷始を不思議そうに見つめた。「どうしたんだ？」

古谷始は拳を握りしめ、低い声で言った。「私たちは今日の昼に広場で突然の誘拐事件に遭遇しました。犯人の動きは極めて素早く、瞬く間に人を車に連れ込んで連れ去りました。私と星野離は、誘拐された人が男か女かさえ見分けられませんでした。」

「その時、私の妹も居て、誘拐された人は彼女の友達だったようで、すぐに自転車で追いかけていきました。私は心配で...」

古谷始は言葉を途中で切ったが、その意味は明らかだった。

井上裕人も一瞬驚いた。あの荒涼とした現場に、確かに不気味な、ほとんど壊れかけの自転車があったことを鮮明に覚えていた！

しかし！

井上裕人は古谷始を見つめながら尋ねた。「君の妹？」

古谷始に妹がいることは知っていたが、彼の妹は十数年前に交通事故で亡くなったはずではなかったか？

「実の妹ではありません。」古谷始は説明した。