第644章:井上家を代表して出席します

ずっと黙っていた井上裕人がこの時、一言勧めた。

井上お爺さんの心の中で裕人の地位は誰にも及ばないもので、この一言だけで、ずっと断っていたお爺さんは頷いた。「よし、お前たちの言う通りにしよう。一つやろう!」

長老たちは何気なく視線を交わし、心の中で苦笑した。自分たちがどれだけ説得しても、孫の一言には及ばないのだ。

「そうそう」井上お爺さんは何か思い出したかのように、執事の古谷さんに向かって言った。「古谷さん、あのパーティーの招待状を持ってきてくれ。」

古谷さんは頷いて、玄関の棚に向かい、引き出しを開けて、中から金色の豪華な封筒を取り出した。

お爺さんはそれを受け取ると、すぐに裕人に渡し、さりげなく説明した。「裕人、これは今年の朗星パーティーの招待状だ。三日後にお前が私の代わりに行ってくれ。」

朗星パーティーは、東京商工会議所連盟が主催する、東京の上流社会で年に一度開かれる盛大なパーティーで、招待される人々は皆、東京のビジネス界で重要な地位を占める成功者たちだ。

井上財閥は東京のピラミッドの頂点に立つ企業として、毎年必ず招待されており、井上お爺さんも財閥の会長として、毎回喜んで出席していた。

しかし今年は、裕人に代理で行かせようとしているのだ。

その深い意味は言うまでもなく、井上お爺さんはこの機会を借りて、東京の全ての人々に井上財閥がまもなく世代交代することを知らせようとしているのだ。

その場にいる人々は目を伏せ、息を潜めて、誰も一言も発しなかった。

賢い裕人が、お爺さんの考えを見抜けないはずがなかった。

招待状を受け取り、裕人は平然と頷いた。「分かりました、お爺さん。私が井上家を代表して必ず出席します。」

裕人が断らなかったのを見て、お爺さんは満足げに頷いた。「雪絵も一緒に連れて行きなさい。最近彼女はあまり外出せず、家に籠りっきりで楽しくなさそうだから。」

「はい」裕人は頷いて承諾した。

……

三日後。

洗面所で、馬場絵里菜は鏡の前で、ヘアアイロンで髪を巻いていた。

このヘアアイロンは昨日武道場から帰る途中に買ったもので、簡単な化粧品も一緒に購入した。

生まれ変わってからというもの、馬場絵里菜はほとんどの時間をポニーテールで過ごし、時々髪を下ろすことはあったが、カールするのは今回が初めてだった。