水雲亭の屋上テラスは、優雅で静かな空中庭園として造られており、クラブ内は完全禁煙のため、お客様やスタッフが喫煙する際の最適な場所となっていた。
テラスには人が多くなく、馬場長生は適当にソファを見つけて座り、ポケットからブランドのタバコを取り出し、その中から一本を取って鈴木強に差し出した。
鈴木強は手を伸ばしてタバコを受け取り、馬場長生の向かいのソファに腰を下ろした。タバコを指に挟んだまま、すぐには火をつけず、馬場長生に視線を向けた。
「今日は突然、好美さんをパーティーに連れてきたんだね。珍しいことだ」鈴木強は心を落ち着かせながら、馬場長生を見つめて言った。
馬場長生はタバコに火をつけ、ライターを鈴木強に渡してから、軽く微笑んで言った。「好美は私と結婚してから、このような上流階級のパーティーにほとんど出席していなかったんだ。時々考えると、本当に申し訳ないと思う。これからは機会があれば、彼女をこういう場に連れて行くつもりだよ」
鈴木強はそれを聞いて、軽くうなずき、テラスの外の壁を通して遠くを見つめ、しばらく何も言えなかった。
二人は幼い頃からの付き合いで、馬場長生は鈴木強のことをよく理解していた。彼がこのような状態になるときは、必ず何か心配事があるということを知っていた。
眉間にしわを寄せながら、馬場長生は身を乗り出して尋ねた。「どうしたんだ、強?何か心配事があるように見えるが」
鈴木強は視線を戻し、諦めたような笑みを浮かべて、軽く首を振った。「何でもないよ。ただ急に思い出したことがあっただけだ。気にしないでくれ」
この時、鈴木強の心は葛藤していたが、頭は冷静さを保っていた。
長生の娘が今パーティーにいることは事実だが、長生はそれを知らない。この時点でそのことを彼に告げることはできない。なぜなら、鈴木強自身も馬場長生が自制できるかどうか分からなかったからだ。
彼は遠くから一目見るだけで満足するのか、それとも全てを顧みずに駆け寄って身分を明かすのか?
橋本好美もまだその場にいる。鈴木強はこのリスクを冒すことはできなかった。もしこのことで長生の現在の生活が乱されてしまうのは、鈴木強が決して見たくないことだった。
長生だけでなく、登美子のことも考えなければならない。彼と長生は両方とも登美子の意思を尊重すべきだった。