ローズエンターテインメントは設立されたばかりで、いくつかのタレントと契約しているものの、全て新人であり、これは新会社設立当初の運営モデルでした。
新田愛美のような国民的な大スターが突然会社と契約すると、一気にローズエンターテインメントが注目を集め、他の大手事務所の関心を引くことは間違いありません。
馬場絵里菜は相変わらず、実績を出すまでは全て控えめにすべきだと考えていました。特に彼女にとって経験の少ないエンターテインメント業界では。
足を引っ張られても、何が起きたのかさえ分からないかもしれません。
「もう遅いから、そろそろ帰りましょう」と絵里菜は二人に言いました。
白川昼が「送っていきましょうか?」と尋ねました。
絵里菜は微笑んで首を振り、「結構です。送ってくれる人がいますから」と答えました。
今日は古谷始のパートナーとして来ているので、当然、他の人に送ってもらうわけにはいきません。それがマナーです。
白川昼と新田愛美が去ったばかりのところに、古谷始が井上裕人と井上雪絵を伴って近づいてきました。
「帰る?」と古谷始は絵里菜に優しく声をかけました。
絵里菜は頷き、井上兄妹に視線を向けて「お二人も帰るところですか?」と尋ねました。
井上裕人はポケットに手を入れたまま、唇を少し動かしてから「もう終わったからね」と答えました。
絵里菜は頷いて「じゃあ、行きましょう」と言いました。
すでに深夜で、8月とはいえ、東京の夜はやや肌寒かったです。
四人が水雲亭を出ると、外の路上には高級車が並び、それぞれの運転手が迎えに来ていました。
夜風が吹き、絵里菜の額に散らばった髪を揺らす中、次の瞬間、肩に重みを感じ、スーツの上着が掛けられていました。
絵里菜が驚いて振り返ると、井上裕人が無表情で彼女を見つめ、淡々とした口調で「露出が多いから、風邪を引くぞ」と言いました。
傍らで上着を脱ごうとしていた古谷始は、その様子を見て動きを止め、そっと手を引っ込めました。
実は絵里菜は寒さを感じにくく、おそらく心法を習得したことと関係があるのでしょうが、井上裕人の突然の行動に、心の中に少しだけ温かい感情が芽生えました。
「ありがとう」今回の絵里菜は意外にも抵抗せず、おそらく一晩のパーティーで疲れ果て、もう井上裕人と言い争う元気が残っていなかったのでしょう。