夏目沙耶香は馬場絵里菜のことを思い出し、思わず腕時計を見て、そして教室の入り口を見た。「もうすぐ7時半なのに、彼女はまだ来ていないわね?」
藤井空:「たぶん渋滞じゃないかな。さっき学校の外は車展示会みたいだったよ」
林駆も言った:「高遠晴もまだ来ていないの?」
「まだよ」夏目沙耶香は首を振った。
そのとき、高遠晴は教室に向かう途中で、高橋桃に行く手を阻まれていた。
水場の外の人気のない角で、高橋桃は少し頭を下げ、緊張した様子で唇を噛み、無意識に内股の姿勢で立っていた。
向かい側では、高遠晴が片方の肩にバッグをかけ、無表情で明らかに緊張している高橋桃を見つめ、思わず尋ねた。「何か用?」
さっきまで彼はそのまま教室に行くつもりだったが、突然高橋桃に呼び止められ、ここに連れてこられた。彼女の様子から見ると、明らかに彼に用があるようだった。
高橋桃は自分の心臓が喉元まで飛び上がるのを感じた。前学期に高遠晴たちとよく一緒に遊んでいたので、接触も増え、もう不快な反応はないだろうと思っていた。
しかし今、彼女が一人で高遠晴と向き合うと、やはり抑えきれないほど緊張してしまった。
顔が熱く、酸素が足りなくなるような感じがした。
高橋桃が黙っていると、高遠晴も急かさず、ただそこに立って静かに彼女が口を開くのを待っていた。
しばらくして、高橋桃はようやくポケットから小さな箱を取り出し、手を伸ばして高遠晴の前に差し出した。「これ...あなたに」
話し始めたものの、高橋桃はまだ頭を下げたまま、高遠晴の目を見る勇気がなかった。
高遠晴は一瞬驚き、表情に戸惑いが見えたが、それでも手を伸ばしてその小さな箱を受け取った。「これは何?」
箱は大きくなく、正方形で、目立つロゴもなく、包装袋もなかった。手に持っても全く重さを感じず、まるで中身が空っぽのようだった。
「開けて見てください」高橋桃は唇を噛みながら言った。頭は上げたものの、目線は思わず逸らしてしまう。
開けると、中には空色のシルクのハンカチが入っていた。
手に取ると、ハンカチは冷たく滑らかな感触で、上質な素材だった。ブランドのマークはなかったが、とても丁寧に作られていた。
ただ...
高遠晴は少し困惑した様子で「これは...僕へのプレゼント?」