高橋桃の様子を見ると、誰かに付いてきてほしくないようだった。彼女はいつもそうで、自分のせいで他人に迷惑をかけることを好まなかった。馬場絵里菜に対しても同じだった。
馬場絵里菜はその様子を見て、外へ付いていくのをやめた。
観光室を出ると、冷たい風が顔に当たり、高橋桃は急に元気になった気がしたが、体は思わず震え、上着をきつく身に巻き付けた。
この湖の上の温度は湖岸よりも低かったが、太陽の温もりがあるため、少しは暖かさを感じることができた。
船首は風が強かったので、高橋桃はまっすぐ船尾へ向かい、湖面に向かって口を少し開け、大きく風を吸い込んだ。そうすることで少し楽になり、胃の不快感を和らげることができた。
しばらくすると、他のクラスメイトも観光室から出てきて手すりの近くで景色を眺め始めた。中にはカメラを持ってきて、湖面に背を向けて写真を撮る生徒もいた。
絵里菜は船内で時間を確認した。桃は2分で戻ると言ったのに、もう10分近く経っているのにまだ戻ってこなかった。
心の中で何となく不安を感じていた。
「桃を見てくるね」と絵里菜は夏目沙耶香に言った。
夏目沙耶香はそれを聞いて立ち上がった。「一緒に行こう」
しかし、二人が立ち上がったとき、船の外から突然叫び声が聞こえた。「誰か落ちた!」
遊覧船のエンジン音はとても大きかったが、この叫び声はさらに雷のように響き渡った。船室内のクラスメイトたちは驚き、絵里菜は一目散に外へ走り出した。
夏目沙耶香は我に返るとすぐに後を追った。
菅野將もすぐに飛び出したが、他の船室にいるクラスメイトたちには慌てないように、また事故が起きないよう外に出て騒ぎに加わらないようにと言った。
「誰が落ちたの?」
「わからないよ…」
「手すりがあるのに落ちるの?」
「あの手すりは一本だけで、腰の高さしかないよ。もし足を滑らせたら、手すりの下から落ちてしまうかもしれない」
「なんてこと、この遊覧船の安全対策が不十分だわ」
クラスメイトたちはざわざわと議論し始め、誰も景色を見る気分ではなくなり、落ちた人が誰なのか推測し始めた。
観光室の外で、絵里菜は真っ先に飛び出し、船尾に集まっている数人のクラスメイトをすぐに見つけた。