「新田愛美が来たよ!」
誰かが待合ロビーで叫んだ声に、それまでざわめいていた人々は一瞬静まり返った。新田愛美が警備員に囲まれてゆっくりと入ってくるのを見て、ようやく我に返った。
「本当に新田愛美だ!」
「主催者の宣伝だと思ってたのに!」
「すごい、生で見られるなんて!」
「実物すごく美しい、泣きそう!」
新田愛美を見た人々の興奮は言葉に表れていた。俳優を目指すこれらの新人たちにとって、心の中の憧れは間違いなく新田愛美だった。
新田愛美は群衆に向かって手を振り、小さな声で「みんな頑張って」と言った。
そして、オーディション会場の中へと入っていった。
待合室にいた馬場依子は手のひらに汗をかいているのを感じた。さっきまで必死に抑えていた緊張感が、また湧き上がってきた。それに言葉では表せないほどの興奮も混ざっていた。
「依子、中に入ったら、下を見ないで。自分が渡辺唯になったつもりで、ストーリーを想像して、余計なことは考えないで」佐藤優が傍らで励ました。
馬場依子は決意に満ちた目で頷き、大きく深呼吸を繰り返した。ようやく少し落ち着いた気がした。
これは彼女が芸能界で最高のチャンスだった。もしこの役を手に入れることができれば、一夜にして有名になる可能性が高かった。製作陣の実力は折り紙付きで、興行収入は間違いなく良いはずだった。
待合ロビーの別の隅では、色白で優しげな顔立ちの若い男性も同じように緊張していた。
その男性は他でもない、かつてローズエンターテインメントが契約しようとしたが、馬場絵里菜を怒らせて追い出された細田銘夫だった。
彼の隣には、相変わらず肥満体型で大きな頭と耳を持つおしゃべりな男がいた。
「銘夫、失敗するなよ。今回うまくいけば、お前は完全にブレイクするんだから!」太った男は細田銘夫よりも緊張しているようで、話しながら絶えず細田銘夫に扇いであげていた。
「お前は今でも広告の仕事があるし、その外見とスタイルは生まれながらのスター性がある。あとはこの最後の一歩だけだ。監督はオスカーを取ったことがあるって聞いたぞ。誰を撮っても有名にする人だから、何としても入り込まなきゃ」
細田銘夫はうるさくて頭が痛くなり、イライラして眉をひそめた。「おじさん、うるさいよ。落ち着かせてよ」
なるほど、細田銘夫のマネージャーは彼の叔父だったのだ。