しかし、理由もなく井上裕人からの贈り物を受け取ることに、細田登美子は断るのも気が引けたが、完全に素直に受け取ることもできなかった。
そこで井上裕人に向かって言った。「時間があれば、おばさんがご飯をごちそうするわ。あなたにお礼を言う機会も欲しいし。」
井上裕人はそれを聞くと、目に光を宿し、すぐに頷いて答えた。「いいですね。あなたの料理の腕前も味わってみたいです。絵里菜がいつもあなたの料理は美味しいって褒めてましたから。」
画外音【馬場絵里菜:ふん、厚かましい。いつそんなこと言ったっけ?】
「彼女の言うことを真に受けないで。おばさんは家庭料理を作るだけで、外のレストランのシェフには到底及ばないわ。」細田登美子は笑いながら言った。
すると井上裕人はすぐに応じた。「僕は家庭料理が大好きなんです。」
この時、細田登美子はすっかり井上裕人のペースに乗せられていて、思わず声を出して笑った。「いいわ、あなたが好きなら、いつでもおばさんの家に来て食べなさい。おばさんが作ってあげるから。」
「おばさん、電話番号を交換しませんか?都合のいい日に電話してください。」井上裕人は自然な流れで言った。
細田登美子は断る理由もなく、すぐに井上裕人と連絡先を交換した。
二人はさらに楽しく会話を続け、ホールを通りかかる多くの井上裕人を知っている客たちは、思わず細田登美子を二度見するほどだった。
この細田部長は、井上とこんなに親しい関係なのか?
井上裕人が細田登美子に「さようなら」と言って去った後、遠くから見守っていた霞がまた戻ってきた。
「登美子、どういうこと?いつから井上さんとそんなに仲良くなったの?」霞は驚いた表情で尋ねた。
細田登美子は苦笑いして、正直に答えた。「そんなことないわ。裕人は私の娘と仲がいいのよ。」
「あなたの娘?」霞は驚いた。「娘さんはまだ高校生じゃなかった?」
「そうよ、私も彼らがどうやって友達になったのかわからないの。」細田登美子は言った。
霞は井上裕人の姿が消えたドアを信じられない表情で見つめ、驚きながら首を振った。「本当に意外ね。井上さんにこんな優しい一面があるなんて。彼は気難しいって言われてるのに、さっき遠くから見てたけど、突然怒り出すんじゃないかって怖かったわ。」